認知症ケアの基礎と家族ができる対応策 | 介護現場・家庭で役建つ実践ガイド

認知症のご家族を介護するなかでは、「どう接すればよいかわからない」「今後が不安だ」と感じることも多いのではないでしょうか。
本記事では、認知症ケアの基本を押さえつつ、「食事や入浴で困ったときの対応」「ご本人が安心できる声掛けや接し方」など、自宅ですぐに役立つ具体的な方法をお伝えします。さらに、介護を続ける家族の負担を少しでも軽くするため、利用可能な介護サービスや制度についても詳しくご案内していきます。
認知症になったご本人の気持ちに丁寧に寄り添いながら、無理のない介護を続けるヒントを一緒に見つけていきましょう。
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目次
認知症ケアの基本を理解する
認知症ケアの基礎知識としては、「症状や進行の特徴」「ケアの基本的な考え方」「本人の尊厳を守ることの重要性」といった点が挙げられます。これらのポイントを正しく理解することで、より適切な対応や支援が可能になります。以下で詳しく解説しますので、日々のケアや今後のサポートにお役立てください。
認知症の主な症状と進行
認知症の症状は大きく分けて、「中核症状」と呼ばれる必ず現れる症状と、「BPSD(行動・心理症状)」と呼ばれる個人差の大きい症状の2種類があります。
中核症状 | ・見当識障害:時間・周囲の人・場所が分からなくなる・記憶障害:新しいことが覚えられない・判断力の低下:理解や考えるスピードが遅くなる・実行機能障害:買い物や料理などの段取りが難しくなる |
BPSD(行動・心理症状) | ・徘徊・妄想・厳格・不安感・焦燥感・暴言・暴力・介護拒否・睡眠障害・昼夜逆転・異食行為(食べ物ではないものを口にする行動)・抑うつ |
認知症を発症すると、まずは中核症状から現れることが多く、本人は今までできていたことができなくなったことに不安や戸惑いを感じ、自信を失ってしまうことが少なくありません。
そのとき、家族や介護者がうまくできないことを指摘したり、失敗を厳しく責めたり、本人のプライドを傷つけるような言動を取ったりすると、本人のストレスが高まり、BPSDが現れやすくなります。
そのため、本人の気持ちに寄り添い、不安や焦りを感じていることを理解していると伝えることが重要です。否定的な言葉や態度は極力控え、安心感を与えるような関わり方を心がけることが、症状を和らげるための第一歩となります。
認知症ケアの基本的な考え方
認知症ケアで大切なのは、何よりも本人のペースを尊重した見守りです。失敗や間違いがあっても責めず、寄り添う姿勢で接することで、ご本人も安心感を抱きやすくなります。もし、本人の考えや行動を否定すると、不安が強まり、症状が進んでしまう可能性もあるため、十分に注意しましょう。
また、コミュニケーションの際は、できるだけ分かりやすく短い言葉を使い、穏やかな表情や適度なスキンシップを意識することも有効です。居心地の良い環境を整えることも、ご本人の落ち着きや安心につながります。
厚生労働省も、認知症のケアでは「尊厳の保持」を最も重視しています。ご本人の意思や希望を丁寧に受け止め、尊重した支援を心がけてください。
本人の尊厳を守るケアの重要性
認知症の方の希望や感じていることは人それぞれ異なります。たとえば、かつての趣味を再び楽しみたい方もいれば、静かな環境でゆっくり過ごすことを望む方もいます。そのため、「その人の尊厳を守る」という考え方が認知症ケアの基盤になっています。
認知症の方が今どのような気持ちでいるのかを注意深く感じ取り、小さな変化や訴えにも耳を傾けることで、その人らしい生活を取り戻すことができます。具体的には、昔馴染んだ歌を口ずさんだり、好きな食べ物を一緒に楽しんだりすることも、安心感や自信を生み出す大きな力になります。
このような個々の尊厳を意識したケアによって、認知症の方の生活の質(QOL)が高まり、穏やかで安定した日々を過ごせるようになります。
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家庭でできる認知症ケアの実践方法
家庭でできる認知症ケアの実践方法として、日常生活での接し方やコミュニケーションの工夫、BPSD(行動・心理症状)への対応について解説します。家族だからこそ感じる不安を取り除き、正しい認知症ケアの具体的な方法を知ることで、落ち着いて認知症の家族のケアができるようになります。
日常生活での接し方
認知症の方と一緒に過ごすときは、できるだけ本人のペースを大切にしましょう。たとえば、朝の支度に少し時間がかかっても、急かさずに見守ることで、本人の落ち着きにもつながります。
また、段差をなくす、明るさを確保するといった住環境の工夫は、思わぬ事故を防ぐ助けになります。尿漏れや物忘れがあったとしても、叱らずに受け止めることで、本人の安心感や自信を保ちやすくなります。できることは任せ、手を貸すときはそっと寄り添う。そんな姿勢が、自立を支えるケアにつながるのです。
コミュニケーションのコツ
認知症の方と接する際には、短くて分かりやすい言葉を選び、落ち着いた口調でゆっくり話すことも大切です。たとえば、介護スタッフが高齢者をトイレに誘導するとき、次のような声かけが一般的に使われることがあります。
「トイレの時間なので、皆さんにお声がけしているのですが、トイレに行かれますか?」
ただ、このような言い回しは少し長く、伝わりにくいこともあります。認知症の方には、次のようなよりシンプルな表現のほうが伝わりやすくなります。
「今からトイレに行きましょうか?」
このように言葉を簡潔にするだけでなく、相手の目を見て話すことや、やさしい表情、軽いスキンシップを意識することも効果的です。また、ご本人の言葉にしっかり耳を傾ける姿勢も忘れてはなりません。
こうしたちょっとした工夫が、安心感につながり、信頼関係を築くきっかけにもなります。
BPSD(行動・心理症状)への対応
徘徊や暴言、暴力行為といったBPSD(行動・心理症状)が頻繁に見られる場合には、本人が抱えている不安やストレスの原因を探ることが重要です。
まずは、安心して過ごせる環境を整えることが第一歩となります。また、日々の接し方や声かけに工夫を凝らすことで、症状の緩和につながる場合もあります。
たとえば、徘徊や暴言が見られた際には、その行動を頭ごなしに否定するのではなく、本人の気持ちに寄り添いながら、落ち着いた対応を心がけましょう。必要に応じて、医療・介護・福祉の専門機関や専門職に相談することも検討してください。
家族だけで抱え込まず、地域の介護サービスや支援制度を上手に活用することが、負担の軽減にもつながります。
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介護負担を軽減するサービスと支援
家族介護者の負担を軽減するには、介護保険サービスや地域包括支援センターの活用に加え、家族自身の心身のケアが欠かせません。認知症の方を自分たちだけで支えようと抱え込まず、必要に応じて利用できる介護サービスについて相談することをおすすめします。
介護保険サービスの種類と利用方法
介護保険サービスを利用すれば、1〜3割の自己負担で介護支援を受けることが可能です。たとえば、自宅での暮らしを支える「訪問介護」や、日中のケアを行う「デイサービス」、短期間施設で過ごせる「ショートステイ」など、さまざまな形態があります。
利用するには、まずお住まいの市区町村の介護保険課で「要介護認定」の申請を行います。審査の結果は「要支援1・2」「要介護1〜5」、あるいは「非該当(自立)」のいずれかに分かれ、申請から1ヵ月ほどで郵送されます。
認定された介護度に応じて、どんなサービスが適しているかをケアマネジャーと一緒に検討します。公的なサービスをうまく取り入れることで、家族の介護負担もぐっと軽くなるはずです。
地域包括支援センター・相談窓口
地域包括支援センターは、家族による介護や認知症についての相談を受け付けている公的な窓口です。ここでは、ケアマネジャーや社会福祉士、保健師といった専門職が在籍し、それぞれの状況に応じた支援やサービスを紹介しています。
認知症ケアに不安を感じたときは、一人で抱え込まず、できるだけ早めに相談することが大切です。そうすることで、より適切な助言や支援につながりやすくなります。
家族の心身ケアと相談先
認知症の介護を担う家族にとって、自身の心身の健康を保つことも大切です。介護にまつわる不安やストレスを一人で抱え込まず、家族会への参加やカウンセリング、必要に応じて心療内科など専門機関の力を借りることを検討してみてください。
自分自身のケアに目を向けることは、無理なく介護を続けていくうえで欠かせない第一歩です。
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認知症ケアの今後と施設利用の選択肢
認知症ケアの今後と施設利用について、入所のタイミングや施設の種類、家族の役割などについて解説します。将来を見据えた準備と情報収集を常日頃行うことが重要です。
施設入所のタイミングと種類
在宅での介護に限界を感じ始めたら、施設への入所を選択肢として考え始める時期です。介護の負担が一人では抱えきれなくなってきたと感じたときこそ、次のステップを考えるタイミングといえるでしょう。
入所先には、特別養護老人ホームやグループホームなどさまざまな種類があり、本人の心身の状態や性格、これまでの生活スタイルに合った場所を選ぶことが大切です。
とはいえ、希望する施設にすぐ入れるとは限りません。地域によっては、常に満床で、数十人から百人以上の待機者が出ているケースも珍しくないため、早めの情報収集が欠かせません。
「まだ元気なうちに」「いざという時に慌てないように」と考え、施設の見学や入所申込を前倒しで行っておくと、将来的な選択の幅が広がります。
グループホーム・認知症対応型施設の特徴
認知症の方の入所先としては、「グループホーム」や「認知症対応型施設」といった選択肢があります。どちらも少人数での暮らしを基本とし、家庭に近い雰囲気の中で、認知症ケアに精通したスタッフが丁寧に対応してくれる点が魅力です。
さらに、料理や掃除、洗濯物をたたむといった日常的な作業を通じて、「自分のことはできる範囲で自分でやってみる」という姿勢を大切にしています。このような支援は、ただ介助を行うだけでなく、本人の力を引き出すことで自立を促し、認知症の進行を緩やかにしながら、その人らしい生活を守ることにもつながります。
今後の備えと家族の役割
これからの備えとして、介護保険の手続きや施設選びに関する情報は、できるだけ早い段階から集めておくと安心です。認知症の症状が軽いうちに本人の気持ちを丁寧に聞き取り、家族全員で方向性を共有しておくことが大切になります。
さらに、状況に応じて医療や福祉の専門職とも連携を取りながら、本人にとって最善のケアを一緒に考えていきましょう。
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まとめ | 認知症ケアで大切なこと
認知症ケアにおいては、本人の尊厳を守り、その人らしさを大切にする姿勢が何よりも重要です。ご家族が正しい知識を身につけ、無理のない形で介護に向き合える環境を整えることが、安心した生活につながります。
支える側も無理を抱えすぎず、周囲と協力しながら、前向きに介護と向き合っていきましょう。

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