ご家族のための介護の食事介助|誤嚥を防ぐ正しい姿勢と手順

「食事介助は、誤嚥や窒息の危険と隣り合わせで不安…」というお気持ち、よく分かります。
ご家族を想うからこそ感じるその不安を解消しましょう。この記事は、大切なご家族が「安全に」「おいしく」食べられるように、誤嚥防止に焦点を絞り、食事前の準備から正しい姿勢、具体的な介助のコツ、食後のケアまで、一連の流れを分かりやすく解説します。
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目次
食事介助の目的と大切な4つの手順
食事介助は、単に栄養を摂るための「作業」ではありません。それは、ご家族の生きる喜びや尊厳を守り、安全な食事の時間を共有する大切なコミュニケーションです。
食事介助で私たちが目指すこと
私たちが食事介助で最も大切にする目的は、誤嚥を徹底的に防ぐこと、必要な栄養を維持すること、そして何より食事を心から楽しんでもらうことです。ご家族の体調の変化や「ごっくん(嚥下)」の状態を注意深く見守り、そのペースに合わせた温かい支援を提供することが、ご家族介護者の重要な役割です。
安全な食事介助の4ステップ(準備→姿勢→介助→確認)
この4ステップを毎回実行することで、自宅での事故のリスクを大幅に低減できます。
- 食事前の準備と環境調整: 食事に集中できる静かでリラックスできる環境を整えます。事前にトイレや服薬を済ませ、体調(眠気がないか、熱はないか)を確認します。食事が目の前にある状態は、「食べるスイッチ」を入れ、胃液の分泌を促す効果もあります。
- 正しい姿勢の確保: 誤嚥を防ぐための土台作りです。これから説明する「座位90度」など、最適な姿勢をクッションなどで安定させ、食べ物がスムーズに食道へ流れるよう準備します。
- 食事介助の実施: 必ず一口ごとに飲み込みを確認し、ご家族のペースに合わせて焦らず食事を進めます。介助者は常に見守る人として、表情や呼吸に異常がないか注意を払ってください。
- 食後の口腔ケアと記録: 食後に口の中に食べ物の残り(残留)がないか確認し、歯磨きや義歯の清掃を行います。食事中の様子を簡単にメモ(次回の介助への大切なヒント)に残します。
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誤嚥を防ぐ「正しい食事姿勢」の作り方
正しい姿勢は、誤嚥を防ぐための最も効果的な方法です。姿勢が悪いと、食べ物が気管に入りやすくなる「危険な隙間」ができてしまいます。
正しい姿勢角度とその理由
基本は座位90度で、背筋を伸ばし、顎を軽く引いた姿勢です。
- 顎を引く理由: 顎を軽く引くと、喉の奥にある気道が自然に狭くなり(閉じぎみになり)、食べ物が気道ではなく食道へ流れやすくなります。これは、喉の蓋(喉頭蓋)が気道をシャットアウトする動きを助ける重要なテクニックです。
- 座位90度の理由: 重力を使って食べ物をスムーズに食道へ送り込むため、座った状態(90度)が最も適しています。
- ベッド座位の場合: 完全に水平に近い姿勢(仰向け)での食事は極めて危険です。最低30度以上(推奨は30〜45度程度)のギャッジアップを確保してください。この角度は、体への負担を減らしつつ、食道への流れを維持するための工夫です。
ベッド・車いすでの角度設定と支え方
身体が傾いたりねじれたりしていると、食べ物がどちらか一方の気道に入りやすくなります。「ねじれ・傾き」を防ぐことが大切です。
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ベッド・車いすでの角度設定と支え方
場所 | 姿勢角度(目安) | 支え方と注意点 |
椅子・車いす | 座位90度 | 背中にクッションを入れ、骨盤を立てて安定させます。足裏全体が床や足台にしっかりつくように調整し、体幹のぐらつきをなくします。不安定な場合は、脇の下や腰部に薄いタオルを挟み、傾きを修正します。 |
ベッド | ベッド30〜45度 | ギャッジアップ機能を利用し、頭だけでなく膝も15度〜30度程度上げて、身体がずり落ちるのを防ぎ、安定させます。クッションで両脇を支え、頭が横に倒れないように優しく固定します。 |
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とろみの濃度別目安
段階 | 見た目の目安 | 飲む際の感覚 |
段階1:薄いとろみ | スプーンでかき混ぜると、筋が少し残り、傾けるとサラッと流れる。 | 水を飲む際に少しむせる程度の方。とろみ導入の最初の一歩。 |
段階2:中間のとろみ | スプーンですくうと、静かに落ちる程度。流れるペースが遅い。 | 水が気管に流れやすい方。自宅介護で最も一般的に使用される固さ。 |
段階3:濃いとろみ | スプーンですくっても形を保ち、塊となって落ちる。ほとんど流れない。 | 嚥下機能が著しく低下し、誤嚥リスクが非常に高い方。 |
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ご家族のペースに合わせた介助のコツ
安全な姿勢が整ったら、次は「安全なスプーンの使い方」と「声かけ」のテクニックです。焦らず、ご家族が最も食べやすいペースを見つけてあげましょう。
スプーン操作の角度・入れ方・一口の量
- スプーン操作のコツ: スプーンは下唇の中央からやや下向きに、水平に近い角度で口に入れます。食べ物を奥に押し込むと反射が遅れるため危険です。口に入れた後、スプーンの皿で上顎をそっと触って引き抜き、舌の動きを補助して口の中に残さないように配慮します。
- 一口の量: 誤嚥防止の鉄則は「小さじ1/3から1/2程度」を厳守することです。どんなに美味しそうなものでも、一口量が多いと飲み込みきれず残留リスクが高まります。必ず介助者側で調整してください。
食べる順番・声かけのタイミング
- 食べる順番: 先に水やお茶(とろみ付き)で口内を湿らせてから食事に進むと、嚥下しやすくなります。汁気のあるもの(とろみ付きの味噌汁など)から食べる手順も有効です。
- 声かけ: 声かけは、食べる方の動作をスムーズにする「合図(キュー)」です。「お口を開けてください」で準備を促し、「ごっくんですよ」「飲み込みましたか?」という言葉で、飲み込む動作に集中させます。この丁寧な流れが、ご家族に安心感を与えます。
嚥下確認の見分け方(むせ・呼吸・表情)
- むせ: むせたら、すぐに食事を中断し、落ち着くまで待ちます。むせが続く場合は、一口量や姿勢、食事形態が合っていないサインです。
- 呼吸: 飲み込んだ後、呼吸が乱れていないか、「ゴロゴロ」「ゼロゼロ」という**湿った咳(湿性むせ)がないかを観察します。これは食べ物が気管に微量入っている「不顕性誤嚥(むせない誤嚥)」のサインの可能性があり、危険です。
- 表情: 食べる時に顔をしかめる、涙目になる、食事後に疲労感が見られる場合は、無理をしている証拠です。ペースを落とすか、食事形態の変更を検討しましょう。
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自宅でできる!とろみの基礎と調整方法
とろみは、水やお茶などの液体の流れるスピードを緩やかにすることで、誤嚥を防ぐための非常に重要な工夫です。自宅で簡単にできる調整方法をマスターしましょう。
とろみの目的と適用場面
とろみを付ける目的は、水が食道に流れる速度を遅らせ、喉が「ごっくん」の準備を整える時間を稼ぐことです。
- 適用場面: 水、お茶、汁物など、流動性が高すぎるすべての水分。市販のとろみ剤(増粘剤)を使うと、安定した粘性が作れるため安全です。とろみ剤の「ダマ」は誤嚥の原因になるため、パッケージの注意書き通りに30秒以上しっかりとかき混ぜることが重要です。
失敗例と修正方法
- 弱すぎ(失敗): 粘性が足りず、むせを引き起こします。
- 修正: とろみ剤を少量追加し、もう一度よくかき混ぜます。
- 強すぎ(失敗): 口の中に張り付いて残りやすくなり(口腔残留)、水分摂取量も減ってしまいます。
- 修正: 元の液体(水など)を少量追加し、粘性を下げます。少量ずつ様子を見ながら調整するのがコツです。
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食べやすく、おいしくするための調理の工夫
介護食は、安全なだけでなく、「おいしい」ことが大切です。いつものご家庭の食事を、嚥下しやすいように工夫しましょう。
食材別やわらかくする工夫(肉・魚・野菜)
- 肉: 鶏肉は挽肉にしたり、薄切り肉を重ねて煮込んだりして、繊維を断ち切るように工夫します。片栗粉や米粉でとろみを付けて調理すると、口内でバラけずにまとまりやすくなります。
- 魚: 骨はもちろん、硬い皮も完全に取り除くことが重要です。煮たり蒸したりしてやわらかくした後、パサつきを防ぐため、マヨネーズやクリームソース、あんかけなどでまとまりを良くします。
- 野菜: 皮や筋、繊維は口の中に残りやすいため、厚めにむき、十分に煮込みます。ミキサーにかける場合は、だし汁を加えてなめらかにし、とろみ剤で粘性を調整します。
温度・味付けの注意点
- 温度管理: 体温に近い35度〜40度程度が最も安全です。熱すぎると感覚が鈍り、嚥下反射が遅れる原因になります。冷たすぎるものも避けてください。
- 味付け: 薄すぎると食べ物として認識されず、嚥下反射が起こりにくくなります。**酸味(レモンなど)や旨味(だし)**を効果的に利用し、適度な味付けは唾液の分泌を促し、食欲を増進させる効果もあります。
おかゆや麺の水分調整
- おかゆ: 水分が多いと、ご飯と水が分離して**「離水」**の状態となり、水だけが先に気管に流れ込み危険です。水分が分離しない、適度なまとまりがある硬さのおかゆを選び、必要に応じてとろみ剤で粘性を強化します。
- 麺: 麺類は長さがあり、まとまりにくいため誤嚥リスクが高いです。必ず短く刻み、あんかけやソースを絡めることで、食塊(食べ物の塊)としてのまとまりを持たせて提供します。
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栄養不足を防ぐための補助食品活用法
誤嚥を心配するあまり食事量が減ってしまうと、体力や免疫力が低下し、かえって嚥下機能の低下を招きます。市販の補助食品を上手に活用し、少量でも高栄養を届けましょう。
少量高栄養メニューの考え方
- カロリーアップ: 主食(おかゆなど)に、バター、オリーブオイル、粉チーズなど、少量で高カロリーなものを加えてエネルギー密度を高めます。
- たんぱく質アップ: 卵、豆腐、牛乳、ヨーグルトなどを積極的に使用し、市販のプロテインパウダー(無味無臭のものが多い)を料理や飲み物に混ぜるのも効果的です。
補助食品の活用(ゼリー・飲料タイプ)
- 高カロリーゼリー: 嚥下困難な方でも安全に摂取できるゼリー形態で、カロリーやたんぱく質が凝縮されています。食事の後のデザートやおやつとして手軽に利用できます。
- 濃厚流動食(飲料タイプ): 食事の合間に手軽に栄養を補給できます。誤嚥防止のため、必ずとろみ剤で適切な粘性を調整した上で提供してください。
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食前の準備運動:嚥下体操・口腔マッサージ
食事前の簡単な準備運動は、喉や口の筋肉を「食べるモード」に切り替え、嚥下反射をスムーズに促す大切な手順です。
食前の準備運動の目的
- 「ごっくん」の準備: 口や喉の筋肉を動かすことで、飲み込む反射が起こりやすい状態にします。
- 唾液の分泌促進: 唾液は、食べ物を飲み込みやすい塊にするために不可欠です。マッサージで唾液腺を刺激します。
- 集中力アップ: 顔や首のマッサージは、リラックス効果と同時に、食事に意識を集中させる効果があります。
嚥下体操の具体的手順(5ステップ)
- 深呼吸: 大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。万が一むせた時の「咳の力」も高まります。
- 首の運動: 首をゆっくりと左右、上下に動かし、喉元の筋肉をほぐします。
- 口・舌運動: 舌を上、下、左右に大きく動かし、頬を膨らませたりすぼめたりする運動(ブローイング)を行います。
- 頬のマッサージ: 頬の筋肉を優しくマッサージし、食べ物を口の中で保持したり、移動させたりする機能を助けます。
- 嚥下練習: 唾液を飲み込む「空嚥下(からえんげ)」の練習を数回繰り返します。喉仏がスムーズに動いているか、ご家族と一緒に確認してみましょう。
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よくある困りごとへの対応(Q&A形式)
Q:食事を拒否する時の声かけは?
拒否の背景には、「食べにくい」「不安」「体調不良」などが隠れています。 対応: まずは**「どうされましたか?」「どこか痛みますか?」**と優しく声をかけ、原因を探ります。「無理に食べさせなければ」というプレッシャーは避け、「一口だけ、試してみませんか」「好きなものから少しずつ」と、ご本人の意思を尊重して選択肢を提示してください。
Q:口にためこむ時(口腔残留)の対処法は?
口の中に食べ物を貯めてしまう(ポケットに入れる)と、後から誤嚥したり、口の中が不潔になって肺炎のリスクを高めます。 対応: 一口量をさらに少なくし、確実に飲み込める量にします。食べ物が残っている場合は、次のものを絶対に入れないことが鉄則です。食事中にスプーンの背で頬の内側を優しく押したり、頬の外側からマッサージしたりして、飲み込みを促します。
Q:認知症の方への介助で気を付ける点は?
対応: 混乱や不安を避けるため、**毎日決まった時間・場所で食事をする「ルーティン」**を徹底します。子ども扱いは避け、「これは〇〇(料理名)ですよ」と具体的な情報を加え、食べる行動を助けます。また、食器を明るい色に変えたり、食べ物の香りを嗅いでもらったりして、食べ物への興味を引き出しましょう。
Q:むせが続く時どうすれば?
むせは、危険な状態の明確なサインです。 対応: 直ちに食事を中断し、体を起こして背中を優しく叩くなど、むせを促す対処をとります。むせが頻繁に起こる場合は、ご家庭だけで判断せず、ケアマネジャーや訪問看護師、かかりつけの医師に相談し、食事形態(やわらかさ、とろみの濃度)が合っているか見直してください。
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食後の確認と口腔ケア
食事介助は、食べ終わって終わりではありません。食後のケアは、誤嚥性肺炎の予防に直結する大切な手順です。
口腔残留とむせの観察
- 口腔残留チェック: 食後、明るい場所で口の中の**隅々(特に歯と頬の間、上顎の裏側)**を確認します。食べ物が残っていたら、スポンジブラシなどで丁寧に除去します。
- むせの観察: 食事中だけでなく、食後30分〜1時間以内に、咳や湿性の咳(ゴロゴロ音)がないかを確認します。この「むせない誤嚥(不顕性誤嚥)」を見逃さないことが、介護性肺炎予防の鍵です。
義歯の清掃手順と次回への工夫
義歯を使っている場合は、必ず取り外して、義歯専用ブラシや洗浄剤を使い、流水で丁寧に清掃します。義歯を外した後、ご家族の歯茎や舌、頬の内側も、湿らせたスポンジブラシなどで丁寧に清掃し、口腔内の清潔を保つことが何よりも大切です。
食事の様子を簡単にメモ(所要時間、むせの程度、残量など)に残し、次回の介助に活かしましょう。
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まとめ
大切なご家族の安全と「おいしい」を支えるために、この3つのポイントを心がけてください。
- 正しい姿勢の確保: 顎を軽く引いた座位90度、またはベッド30度〜45度の姿勢を補助具で安定させます。
- 一口量ととろみ: 一口量は「小さじ1/3」を厳守し、水分には必ず適切な粘性をつけます。
- 観察と清潔: 食事中・食後の観察と、徹底した口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防します。
ご家庭での介護は大変なことも多いと思いますが、専門職のサポートを受けながら、安全で温かい食事の時間を続けてください。もし不安なことがあれば、担当のケアマネジャーや訪問看護師にいつでもご相談ください。

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