認知症専門病棟の入院治療 | 専門プログラムと家族の負担軽減策

認知症患者の介護に疲弊した家族にとって、認知症専門病棟への入院は生活を見直す大きな転機となります。ここでは、認知症の症状改善に特化した治療プログラムの内容や、多職種が連携して行う専門的なケアについて詳しくご紹介します。日々の介護に限界を感じているご家族の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
認知症専門治療の3大特徴
認知症専門病棟は、一般病院とは異なり、認知症の改善や進行の抑制を目的とした専門的な治療体系を整えています。とくに、発症から約2ヶ月の急性期に焦点を当てた集中的な介入に力を入れている点が大きな特徴です。
治療では、行動・心理症状(BPSD)の改善と生活機能の維持を目指したプログラムが実施されます。ここでは、多職種連携チームによる個別対応計画書の作成から、最新の非薬物療法に至るまで、専門性の高い治療内容について解説します。
行動心理症状(BPSD)改善プログラム
認知症専門病棟の代表的な例として、関西記念病院をご紹介します。関西記念病院では、週5日・1日4時間の生活機能回復訓練を実施し、音楽療法と回想療法を組み合わせたプログラムで成果を上げている点が特徴です。
さらに、非薬物療法として週2回の園芸療法を導入し、NPIスコア(神経精神症状評価尺度)を用いて改善効果を客観的に測定しています。2024年の症例では、暴言や暴力の症状があった認知症患者のNPIスコアが、入院前の38点から退院時には18点まで改善した実績があります。
多職種連携チームの役割分担
認知症専門病棟では、多職種が連携したチーム体制のもとで、一人ひとりの患者に合わせたケアを行っています。先にご紹介した関西記念病院の51床の病棟では、各職種が明確な役割分担のもとで連携し、質の高い支援を実現している点が特徴です。
- 看護師1名が患者5名を担当する体制をとっている
- 個別リハビリと集団療法を併用した治療を行っている
- 週2回の合同カンファレンスで患者ごとの治療方針を更新している
なお、実際の医療現場で活躍している職種とそれぞれの役割は以下のとおりです。
職種 | 主な役割 |
---|---|
精神科医 | 薬物調整と治療計画策定を主に担う |
作業療法士 | ADL(日常生活動作)訓練を主に担う |
臨床心理士 | 行動観察と心理評価を主に担う |
看護師 | 24時間体制の症状管理を主に担う |
生活機能回復トレーニング
抗酸化作用のある食材を取り入れた、アンチエイジングを意識した食事メニューと組み合わせながら、1日約3時間の個別リハビリを実施しています。調理訓練や散歩などの活動を通じて、認知機能と身体機能の双方に働きかけることが可能です。
厚生労働省の調査では、このような複合的なアプローチにより、認知症患者の約75%にADL(日常生活動作)の改善が見られたことが報告されています。
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入院検討時に知るべき重要なプロセス
認知症専門病棟に入院し、専門的な治療を効果的に受けるためには、事前の準備が重要です。ここでは、医療保険の適用条件の確認や、各病院における退院支援体制の違いなど、入院にあたって押さえておきたい基本的なプロセスについてご紹介します。
適応基準の詳細確認
認知症専門病棟の入院料を算定するためには、「要介護2以上」の介護認定を受けていることが前提となります。ただし、昼夜逆転や異食行為といった行動・心理症状(BPSD)が見られない軽度の認知症では、医療保険の適用外となる可能性があります。
東京都の調査によると、医療保険の適用外となった認知症患者のうち、約32%が転院を余儀なくされていることが報告されています。
病院選びの3つの基準
認知症専門病棟がある病院であれば、どこの病院にでも入院を決めていいというわけではありません。入院先に困った場合、以下の病院選びの3つの基準を確認してみてください。
- 専門資格保有率:認知症専門医の常勤が必須であること
- 面会ルール:週3回以上の頻繁の面会が可能であること
- 退院支援体制:「地域連携推進病院」の認可を受けていること
全国老人福祉施設協議会のガイドラインでは、作業療法士と精神保健福祉士の配置基準を満たす認知症専門病院を推奨しています。
費用負担のシミュレーション
実際に認知症専門病棟に入院するには、具体的にどのくらいの費用が必要なのでしょうか。以下は、入院料負担のシミュレーションです。
- 健康保険3割負担の場合、1か月の自己負担額は12~15万円が相場
- 「高額療養費制度」を適用すると、所得区分に応じて2〜8万円に軽減可能
- 関西記念病院では、初期費用として入院準備金10万円が必要
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家族の負担軽減に役立つ支援
認知症の治療効果を最大限に引き出すためには、家族の協力体制が欠かせません。ここでは、家族介護者の負担を軽減するために整備されている公的支援制度と、その具体的な活用方法について、実践的な情報をご紹介します。
レスパイト入院の活用術
レスパイトケアとは、「介護者の休養・休息」を意味する言葉です。認知症の介護を日常的に担っている家族介護者は、知らず知らずのうちに介護疲れやうつ状態に陥る可能性があります。認知症専門病棟では、そうした負担を軽減するために、最大14日間の短期入院プログラムを提供しています。
埼玉県の事例では、1日5,000円の入院費用を補助している市町村が全体の78%にのぼっています。こうした補助制度を利用してレスパイト入院を希望する場合は、要介護認定書の写しを用意し、所定の手続きで申請する必要があります。
医療保険と介護保険の併用
認知症の治療には「医療保険」、認知症患者の日常生活支援には「介護保険」がそれぞれ適用されます。医療保険と介護保険を併用することで、週14時間の利用上限が設定されるため、介護支援専門員(ケアマネジャー)との調整が必要です。
全国調査では、医療保険と介護保険を併用することで、68%の認知症患者並びにそのご家族が費用削減効果を実感しています。
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体験者が語る治療の実際
認知症専門病棟への入院によって、どのような効果が実感できるのでしょうか。実際に入院治療を経験した認知症患者のご家族の声からは、公式な情報では見えてこない具体的な効果や課題が明らかになります。ここでは、入院によって得られた成果と今後の課題についてご紹介します。
症例①暴言・暴力が改善した80代男性
認知症による激しい暴言や暴力行為が見られた80代男性の事例では、認知症専門病棟に約3ヶ月間入院することで一定の効果が見られました。入院時には38点だったNPIスコアが、治療の結果18点にまで改善し、その後退院時には25点まで再び上昇しました。
退院後はケアマネジャーと相談のうえ、通所リハビリに移行しています。ご家族からは「3ヶ月間の休息で心身に余裕が持てた」との声が寄せられました。
症例②昼夜逆転が解消した事例
認知症患者にご家族の方がうまく対応できず、昼夜逆転してしまった事例です。認知症専門病棟に入院後、毎朝7時からの光療法を2週間継続した結果、睡眠リズムが改善しました。
退院後6ヶ月間、在宅医療チームが週3回訪問することにより、昼夜逆転の再発を防いでいます。
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まとめ | 適切な治療選択のためのチェックリスト
認知症の専門治療で最大限の効果を得るためには、認知症専門病棟のある病院へ入院するだけでは不十分であり、入院前からの慎重な準備が欠かせません。とくに、「病院の専門資格の有無」「退院後の支援体制の充実度」「費用負担のシミュレーション」の3点は、事前に確認しておきたい重要な項目です。
地域別の相談窓口一覧や病院の比較表は、インターネット上で閲覧できます。認知症患者本人やご家族の状況に応じて、適切な病院を選ぶようにしましょう。

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