
個人情報の保護やプライバシーの問題への意識が高まる昨今、介護においてもそれらの知識が必要になります。
開示してはいけない情報を知識不足によって公開してしまうと、信頼関係の失墜だけでなく訴訟に発展するリスクもあります。
事業者としても従業員に適切なガイドラインを策定し、ルールを守ってもらうことが必要になっています。
本記事では介護におけるプライバシー問題を取り上げ、配慮が必要になるタイミングや、プライバシーに配慮した介護を行うための前提知識をご紹介します。
目次
介護現場での大きな悩み「プライバシー問題」
介護職は業務の特性上、被介護者のプライベートへ介入する場面が多くあります。
例えば身体に触れて行う介助や、排泄、家族との対応など、強い信頼関係と守秘義務を守ってもらえるという安心感がなければ任せられない作業をサポートさせてもらっています。
プライバシーの侵害が起こると信頼関係が崩れ、介護そのものの継続が困難になるため、プライバシーの遵守には最新の注意を払う必要があります。
実際に守秘義務違反で訴訟になるケースや、被介護者の家族とのトラブルになるケースも見られています。
どんな時にプライバシー配慮が必要になるのか
介護職の方がプライバシーの配慮のために意識を配るべき行為には、次の5つが挙げられます。
1.入浴・排泄
入浴・排泄ではデリケートゾーンをさらすため被介護者の羞恥心への配慮が必要です。
「見られたくない」「音を聞かれたくない」と思う方も多いので、一律的な介助にせず、被介護者の希望に沿った対応を心がけましょう。
例えば、
・おむつ交換時にベッド周りのカーテンを閉める
・トイレへ誘導する際の声かけを小声で行う
などに注意しましょう。
2.被介護者との会話
被介護者との会話を通して様々な情報を知ることができます。
それらを口外せず、守秘義務として心の中にしまっておくことが必要です。
施設の別の人の話題にも注意が必要です。
「あと人がこう言っていた」と意図しない形で伝わってしまうとトラブルになりかねないので、あくまでも介護者と被介護者の間でのみ共有できる話題を選びましょう。
また、認知症や失語症の方とのコミュニケーションは容易ではありませんが、そのような場合でもないがしろにせず、人として尊重することが求められます。
対応が難しい場合にはケアマネージャーや行政の担当者とも連携して、どのようなコミュニケーションであれば被介護者を尊重できているかを確認すると良いでしょう。
3.被介護者の家族との会話
被介護者の家族であっても、施設での被介護者の行動や会話によって知った情報を全て話していいわけではありません。
時には家族との関係が良好ではないケースもあるので、必要性をよく考慮して話をすることが大切です。
被介護者の家族が病気になった時に、家族から「本人には伏せておいてほしい」と言われるケースもあります。
そのような場合には家族の意向を汲むことが守秘義務の遵守と言えるでしょう。
4.SNS
業務を通じて知り得た情報を、SNSを通して発信することはタブーです。
特にFacebookなどの実名アカウントでは個人の発言が特定されやすい性質があります。
「仕事に不満がある」「介護に疲れた」などのような、被介護者の情報を含まない発信であっても、トラブルに発展するケースがあります。
SNSの投稿には細心の注意を払うことが必要です。
5.被介護者の物品
介護では被介護者の物品を取り扱う場合もあります。
日記や写真など、被介護者の思い入れのある物品を無断で見てしまうと、被介護者の感情に大きな影響を与えるため、それらに触れる必要がある場合には許可をもらうようにしましょう。
訪問介護では被介護者のプライベートな空間に立ち入るため、あらかじめ触れて良いものとそうでないものを打ち合わせておくこともトラブルを防ぐための対策になります。
プライバシーに配慮しながら介護をするには
プライバシーを守りながら介護をするためには、個人情報に関する知識も必要になります。
ここでは基本的な心構えに加えて、介護ではどこまで介入しても良いのかを法とガイドラインに基づいて紹介します。
被介護者に対して、尊厳を持って接する
プライバシーを侵害しないためには、被介護者が自分と対等な個人であるという認識を常に持ち、尊厳を欠かさないことが大切です。
「自分が介護をされる立場だったらどう感じるだろう」という視点を常に持ち、被介護者のサポートに努めましょう。
事業所全体で認識を共有する
プライバシーが守られる環境を、事業所全体で作り上げることも効果的です。
個人情報に関する研修や、噂話が起こりにくい環境づくりをスタッフ一丸となって行うことで、被介護者が安心して生活できるようになります。
個人情報保護法を理解する
個人情報保護法とは個人の権利と利益を保護するために、個人情報を扱う事業者に対して義務を定めた法律です。
氏名や生年月日、その他の個人を特定できる情報が誰にでも見れる形で公開されないように求めています。
個人情報の管理を怠ることで罰則が適用されることもあるので、介護の現場においても厳重な情報管理が求められることを理解しておきましょう。
厚生労働省のガイドラインを理解する
個人情報保護法の施行と同時に、厚生労働省から「厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が発表されました。
このガイドラインでは介護における個人情報の取り扱い方に加え、漏洩などの問題が行った際に対処を行う体制をどのように構築するかなどについて提言をしています。
また、医療・介護特有の問題として遺伝情報や生活記録など、基礎研究に役立つ情報も取り扱うことがあります。
それらを公的機関に登録する際には、個人が判別できない形式にすることなども本ガイドラインで規定されています。
利用者のプライバシー配慮と介護の両立
介護は被介護者と近い関係にならざるを得ないため、多くの個人情報を扱う可能性があります。
その場合にも被介護者の気持ちに寄り添い、プライバシーの確保に努める必要があります。
本記事では、プライバシーの尊重のために「入浴・排泄」「被介護者との会話」「被介護者の家族との会話」「SNS」「被介護者の物品」の5つに特に注意が必要なことを述べました。
これらに留意して被介護者が安心して生活できる環境を構築しましょう。