介護におけるグレーゾーンとは?介護現場で行われている不適切ケアの事例をご紹介!
介護現場において、介護者がつい配慮に欠けたケアを行ってしまう可能性は往々にしてあります。
「虐待」はもちろん行ってはいけないことですが「グレーゾーン」と呼ばれている不適切なケアにも注意が必要です。虐待とグレーゾーンとの線引きは難しいもの。日頃から、不適切なケアから根絶しなければなりません。
今回の記事では「介護におけるグレーゾーンとは?介護現場で行われている不適切ケアの事例をご紹介!」と題して解説します。
さまざまな事例を通して、普段のケアを振り返ってみてください。
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目次
介護現場での「不適切なケア」とは
不適切なケアとは、ご利用者に行われる正しくないケアのことです。介護者が忙しさやイライラからつい不適切な対応に至ってしまうことががあります。また、介護者が良かれと思って行ったことが実はご利用者にとっては正しいケアではなかったという、無自覚で行われるケースもあるでしょう。
不適切なケアの中でも、利用者の被害が明らかなものは「虐待」であると言えます。
介護職員が利用者に行う虐待の定義は以下の5つです。
- 身体的虐待
- 心理的虐待
- 経済的虐待
- 介護放棄(ネグレクト)
- 性的虐待
上記5つの虐待には該当しないものの、適切とも言い難い「不適切ケア」が介護現場では問題化しています。不適切ケアは虐待とは明確に判断できず、介護現場で黙認されやすいことから「グレーゾーン」と呼ばれ、具体的には以下のような介護職員の言動を指します。
- 利用者をあだ名やちゃん付け、呼び捨てで呼び子供扱いする
- 威圧的な態度で利用者に「ちょっと待って」と言い、長時間に渡って待たせる
- 声かけを全くせずに無言で介助したり、無言で居室に入って私物を触ったりする
- 利用者やご家族の言動を馬鹿にしたり、悪口を言ったりする
このような不適切ケアが改善されずに放置されることが、虐待へとつながります。虐待防止のためには、グレーゾーンとされる不適切ケアへの早期発見、対処が必要です。
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介護現場で実際にあった不適切なケア事例
ここからは、介護現場で実際に会った不適切なケアの事例をご紹介します。
1.不適切な言葉かけ
まずは、介護現場で実際に行われていた強い言葉によってご利用者の行動を抑制する
「介護職員の不適切な言葉かけ」の事例です。
8名の利用者がいる介護施設のフロアで、1人の介護職員が昼食の配膳を行っていた時、 既に食事をしていた認知症の利用者が自身のお膳を突然持ち上げようとしました。 介護職員は他の利用者の対応で手が離せず、少し離れた場所から「〇〇さん!危ないからやめて!」と強い口調で叫びました。 その様子を見ていた利用者が後日、施設管理者に「落ち着いて食事ができなかった」と苦情を伝えたことで問題化し、改善が求められています。 |
事例のように、強い言葉がけによりご利用者の行動を抑制すること以外にも、不適切な言葉かけには以下のようなものがあります。
- 命令口調
- そっけない返答
- タメ口・なれなれしい口調
- 赤ちゃん言葉・子供扱い
- 「汚い」「臭い」など傷つける言葉
- 「病気になる」「歩けなくなる」など不安にさせる言葉
職員の配慮に欠けた言葉かけは無意識に行ってしまう場合も多いでしょう。不適切なケアにつながりやすいため、日頃から十分に注意を払わなければなりません。
2.不適切な態度
次に、介護現場で不適切とされる介護職員の態度についてです。
食事介助の際に、事例2のような不適切な態度が実際に介護現場にて介護職員の都合で行われていたようです。
【事例2】
認知症によって、周りが気になり、食事を口に入れたままよそ見をする利用者がいます。介護職員は全介助でその利用者への食事介助をしていましたが、なかなか咀嚼・嚥下が進まないことに立腹して利用者の顔を自分の方へ向け、顎を無理やり動かしていました。その様子を見ていた別の介護職員が「適切なケアではない」と思い、介護リーダーに相談を行ったことで問題が明らかになりました。 |
無理やり食事を食べさせたり、無理に着替えさせたり無理強いする行為は不適切です。ご利用者の動作が遅いことにイライラしてしまい、それに立腹し無理やり動作をさせるのは虐待とも言えます。
3.行動の制限
ご利用者の動きを制限することも不適切なケアにあたります。
【事例3】
足元がふらつき何度も転倒をして怪我を繰り返しているご利用者がいます。トイレに行きたい時など動く時にはナースコールで知らせていただくように何度も伝えていますが、認知症があるためすぐに忘れてしまいます。そのため、日中リビングで過ごす時に低いソファに座ってもらい、自力では立ち上がれないような体勢にして動けないようにしてました。 |
いくら転倒予防とはいえ、自分で歩けるご利用者の動きを制限するのは身体拘束につながる行為です。
介護保険指定基準において、身体拘束禁止の対象となる具体的行為は以下の行為を言います。
- 車いすやいす、ベッドの体幹や四肢をひも等で縛る
- ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
- ベッドを柵(サイドレール)で囲む
- 点滴などを抜かないように四肢をひもで縛る
- 手指の動かないミトン型の手袋をつける
- Y字型抑制帯・腰ベルト・車いすテーブルをつける
- 立ち上がりを妨げるいすを使用する
- 介護衣(つなぎ服)を着せる
- ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
- 居室等に隔離する
動きを制限すれば、ご利用者の安全は一時的に守られるでしょう。しかし、身体拘束を行うことでご利用者に与える「身体的」「精神的」「社会的」なダメージは大きなものです。
4.無視・放置
ご利用者の声を無視したり、必要な介護を行わずに放置することも不適切なケアに該当します。
【事例4】
日中夜間問わず、居室にいるときはナースコールを頻回に鳴らしてスタッフを呼ぶご利用者がいます。呼ばれて訪室してもとくに大切な用事がないことも多く、寂しさから鳴らすこともあるようです。そのため、ナースコールを鳴らしてもすぐに応答せずに放置したり、押しにくい場所に設置したりするスタッフがいました。 |
介護職員は常に業務に追われて忙しく動き回っているため、ご利用者の声になかなか耳を傾けられない時もあるかもしれません。
無視や放置には、ほかにも以下のような事例があります。
- ご利用者の呼びかけに応じない
- ナースコールを無視する
- 長時間同じ場所に座らせたまま放置する
- 「ちょっと待って」と長時間待たせる
- おむつが汚れている状態を放置する
- トイレに座らせたまま放置する
- トイレに行きたいと言っても連れて行かない
- 言うことを聞かないので順番を後回しにする
- 裸のままで入浴の順番を待たせる
忙しいからと「つい行ってしまう行為」が不適切なケアに該当することもあります。また、故意ではなくとも少し待っていただくつもりがそのまま忘れてしまい、結果的には長時間の放置につながることもあるため注意が必要です。
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介護職員が無自覚のうちにしてしまう不適切なケア事例
不適切なケアには、介護職員が無自覚でむしろ「よかれと思って」行っているケースも多くあります。
1.できることまで介助する
ご利用者が自立する機会を奪ってしまうのは、介護士職が無自覚な不適切な事例の一つです。
【事例5】
いつもご利用者に手伝っていただいている施設のタオルたたみ。普段から皆の輪の中に入らずぼんやりとしていることが多いA様には声をかけずにいました。あるとき、フロアに誰もご利用者がいなかったため、A様にお手伝いをお願いしてみることに。すると「いいよ!」と腕まくりし、すべてのタオルをとてもきれいにたたんでくださったのに驚きました。私たちはA様にはできないと思い込んで今まで放置していたのです。今では、ご自身の洗濯物も畳んでいただいたりテーブルを拭いていただいたりと、できることが増え、他のご利用者やスタッフとの会話も増えています。 |
ご利用者が自分で出来ることもできないと思い込んですべて手伝ってしまうと、事例のように自立支援の機会を奪ってしまいます。
スタッフがやった方が早いからとスタッフの都合で何でも先回りして行うことが不適切なケアに該当することもあります。しかし、手伝ったほうがご利用者が楽になり喜んでもらえると思い、無意識のうちに過剰なケアになっていないでしょうか。
「ご自身で食べられる」「ご自身で着替えられる」人に対して、良かれと思って手伝ってしまうことがあります。「させない」ことがエスカレートすると「ネグレクト」と感じさせてしまうので注意が必要です。
2.できるように指導する
失敗したことに対して、指導したり諭したりするような態度は不適切なケアにあたります。
【事例6】
トイレにご自身で行こうとして、転倒を繰り返す方がいます。骨折したこともあり危険なため、トイレに行きたい時はナースコールでスタッフを呼ぶように伝えていますが、認知症があるためすぐに忘れてしまいます。ある時、再びご自身でトイレに行き転倒。担当スタッフが「トイレに行く時は必ず呼んでください!」「Aさんのためを思って言っているんですよ!」と声をかけていました。 |
スタッフからすればご利用者が、二度と骨折をしないようにご利用者のためを思って言っているのかもしれません。しかし、できないことや分からないことで、1番ショックを受けているのはご利用者自身です。
ご利用者がナースコールを押すのを忘れてしまうのなら、こまめに声をかけるのも大切な支援です。しかし、できないことだけに着目するのではなく、転倒しないような居室環境を整えたり、排泄のペースを把握して声をかけたりほかのアプローチも検討しましょう。
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なぜ介護現場ではそれらが容認されているの?
介護現場で不適切ケアが容認されてしまうことには、大きな背景要因があります。
介護職員だけでなく、介護事業の運営者も介護現場の人手不足に頭を抱え、不適切ケアを容認してしまっているケースも少なくありません。
ここからは、介護現場で生じている「不適切ケアの容認」の実態についてご紹介します。
組織・運営の問題
組織・運営の問題で不適切ケアが容認されるのには以下の様なケースがあります。
- 介護理念や組織全体の方針を決めず、職員への共有も省略している
- トラブルが起きた際の責任者を決めず、対処マニュアルの作成をしていない
- 情報公開に消極的で、ご家族への連絡を省いている
施設全体の取り組みが不十分であれば、不適切なケアは根絶できません。施設としてのマネジメントが機能せず、全体的に不適切なケアを容認するような雰囲気があれば、サービスの質はどんどんと低下していきます。
施設としての方針を明確にし、それぞれに役割を持ってサービスの向上に務めることが大切です。
介護職員の人間関係やケアの問題
介護はチームとして職員同士がうまくコミュニケーションが取れていない施設も、不適切ケアが常習化してしまう傾向にあります。
- リーダーの役割が不明確で、職員1人あたりの業務分担も明確にしていない
- 職員同士での情報共有やコミュニケーションが極端に少ない
- 介護職員に認知症の知識がなく、利用者への対応がその場しのぎ
- 介護職員がアセスメントやケアプランを確認せずに介護業務に当たっている
- 勉強会、研修会を「私用のため」と欠席し続け、知識がないまま業務をしている
ご利用者により良いケアを提供するためにはチームワークが重要です。会議や研修などを通してケアについて学び検討する機会を増やし、同じ方向を向いて業務にあたらなければなりません。不適切ケアを根絶するためには、スタッフ同士の人間関係を良好にし風通しのよい職場環境作りに取り組みましょう。
介護職員個人の考え方、ストレスの問題
個人の介護職員の認識不足や、メンタル面での問題にも注意しなければなりません。
- 利用者の身体拘束や一斉介護を当たり前だと認識している
- 介護理念や高齢者虐待防止法などの決まりや法令を一切知らない
- 業務負担の多さによるストレスや過労で十分な睡眠や食事がとれていない
- 怒られるのが怖いからとトラブルを起こしても報連相を行わない
職員個別で問題がある場合には、日常的に適切な指導を行うほか、定期的な面談やストレスケアも大切です。介護職はストレスを抱えやすいものです。スタッフがストレスを抱え込んでいないかは日頃から気にかけて、積極的にコミュニケーションを取るようにしましょう。
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不適切ケアの改善・予防方法
不適切ケアを予防するには、まず不適切ケアが起こる要因を理解することが重要です。
また、不適切ケアが起こってしまった場合、該当職員に「してはいけない」という指導を行うだけでは、なぜそれが悪いのかが伝わらず改善に至りません。
不適切ケアを防ぐためのリスクマネジメントとして「問題の根源を理解し、問題への適切な予測や対処を行うこと」が大切です。
不適切ケアの具体的な改善・予防方法についてご紹介します。
職場環境の改善を図る
不適切ケアが生じる原因は介護職員1人1人の性格の問題ではありません。
介護事業所の環境や勤務体制など、職場全体の問題と考え、運営方針の改善が必要です。
- 介護事業所が掲げる理念・運営方針を明確化し、職員全体で共有する
- 介護職員1人1人が担う役割や業務内容を明確にする
- 介護事故や虐待などの問題が起こった際の責任所在や指示内容を明確にする
- 監査などの第三者の目を入れ、定期的に虐待や不適切ケアのチェックを行う
介護職員の業務量・ストレスの改善
人手不足が深刻化している介護現場では、介護職員1人当たりの業務負担が多く、介護職員
はストレスを抱えた状態で効率を重視した不適切なケアを行ってしまいます。
介護職員のストレスを放置して最良の介護サービスは生まれません。
- 1フロアに5人の介護職員を配置するなど、余裕のある人員配置を検討する
- 負担がかかっている業務内容については、リフトの導入などを検討する
- 介護リーダーが介護職員の悩みやストレスを定期的な面談で把握する
- 職員間でそれぞれを思いやり、助け合う職場環境を築く
介護職員への教育を強化する
不適切ケアは介護職員の知識不足が原因となることもあり得ます。
認知症利用者への接し方が分からないからといって、手探りでケアを行ってはいけません。
- 職場全体で介護サービスに必要な接遇、コンプライアンスを高める教育を強化する
- 利用者の尊厳を守る介護の実施状況について、役割を決めて適宜チェックする
- 介護の知識が不足している介護職員に研修の参加を促す
- 適切なケアを行えている、外部の指導者を招いて確認する
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もし不適切ケアに気付いたらどうすれば良い?
もしも、勤め先の介護現場で同僚が利用者に対して不適切ケアを行っているのを目撃してしまった場合、以下の方法で速やかな対応を行いましょう。
- 不適切ケアを行っている介護職員に声をかけ、利用者の安全を確保する
- その場で利用者の心身の状態を確認し、必要に応じて外傷がないかなどの確認も行う
- 不適切ケアを行った介護職員へ正確な事実確認を行った上で、管理者へ報告をする
報告を受けた管理者は利用者とご家族への説明と謝罪を行い、不適切ケアを行った介護職員
への指導を行います。
また、他の介護職員にも事例を共有し、同じことを繰り返さないように徹底します。
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善悪の判断をし、グレーゾーンを排除!
介護現場からグレーゾーンの不適切ケアを完全に排除するためにはどうすれば良いのか、不適切ケアの排除に向けて、気を付けることや注意するポイントをご紹介します。
介護者都合のケアを排除
- 利用者にはため口で話した方が親近感が湧いて信頼が築ける
- どうせ認知症で何を言っても分からないから無言で介助すればいい
- 暴れて危ないからベッドに身体を拘束するのは当たり前
「介護者都合の考えは利用者にとってどうか」「自分自身の家族が介護職員にそのような対応をされていたらどうか」など、不適切ケアを排除するためには、間違った認識を改める必要があります。
介護職員の都合や業務の効率を重視するあまり、利用者の尊厳を無視した介護を提供していないか、客観的な視点で自身の介護現場をチェックしてみましょう。
介護職員に無視されたと感じていても認知症などの疾病により伝えられない利用者もいます。
利用者やご家族の立場に立って考えることで、日頃のケアを振り返ることが大切です。
研修や勉強会を通じて虐待や認知症を理解する
- どういった言動が不適切ケアや虐待に該当するのか
- 認知症の人にはどのような症状があり、症状が現れたらどう対応するのか
介護職員に上記のような知識があるのとないのとでは利用者への対応に大きな差が出ます。「認知症利用者への理解が不十分で対応が分からないから焦ってしまう。」「日頃行っているケアが不適切だとは知らずに行っていた。」
そのような間違いを正すためにも、正しい知識を取り入れる必要があります。
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虐待や介護事故を防ぐために悪い芽は早く摘む
高齢者への虐待は、突如として発生するものではありません。
その兆候である「グレーゾーン」の「不適切ケア」が虐待の前には必ず存在します。
虐待を未然に防ぐためにも、自分が提供しているケアを振り返ることや、他の介護職員の様子観察や、研修・勉強会への参加で知識を深めることが必要です。
日頃のケアの様子をこまめに振り返るだけでも虐待の芽を摘むことに繋がります。
介護職員のみならず、チームや組織全体で「不適切ケア」の改善を目指しましょう。
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