介護施設で地震が起きたらどうしたらいい?災害時の備えや対処法を解説
日本は地震災害のリスクが非常に高い国です。
平成7年1月17日早朝に発生した阪神・淡路大震災では、大都市における直下型地震が未曾有の被害をもたらしました。平成23年3月11日の東日本大震災では大地震と大津波、原発事故が起き、戦後最大の自然災害となってしまいました。
地震大国と呼ばれる日本では、いつ地震が発生してもおかしくない状況です。今後30年以内に発生するであろう地震もいくつか想定されています。
介護施設においても、2024年3月までに介護事業所におけるBCP策定が義務化されました。介護施設のご高齢者は、災害時に多くの問題と直面します。そのため、防災対策を講じ、大地震に備えておくことが必要不可欠です。
今回の記事は「介護施設で地震が起きたらどうしたらいい?災害時の備えや対処法を解説」と題して解説します。BCP策定を機に施設の備えを見直しましょう。
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目次
地震が起きた時の介護施設の被害とは?
介護施設にはご高齢で体の不自由な方や認知症の方が生活されています。大地震が起きた時の被害が大きくなってしまうことは想像に難くないでしょう。
地震が発生したときには、スタッフ自らの命を守ることも大切な中、介助が必要な方を迅速かつ安全に避難させることは非常に難しいものです。地震の情報をいち早く察知することが大切ですが、忙しく業務にあたっている中でテレビやインターネットからの速報に気付けず初動が遅くなってしまうこともあります。無事に避難できてもその後の避難場所での生活が難しい方もいるため、原状回復するまでの対応は困難を極めます。
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地震が起きた時に考えられる介護施設での問題
ここからは地震が起きた時に考えられる介護施設での問題をみていきましょう。
自力での避難ができない方が多い
介護施設で生活されている方は何らかの介護が必要な方です。限られた職員数で、移動に介助が必要な方を避難場所へ誘導するのは大変です。
中には1日中ベッド上で生活されている方もいます。車椅子に移れたとしても、車椅子を押し進められる状況ではないかもしれません。普段は自力歩行が可能な方でも、物が散乱したり建物が傾いていたりする中での歩行は危険です。とくに夜間や早朝などの、スタッフの人数がごく少ない中では立ち行かなくなってしまうことが懸念されます。
避難生活への適応が難しい
無事に避難場所へ誘導できたあとの、避難生活もご高齢者にとっては過酷なものになります。
普段からバリアフリーの環境で、福祉用具やスタッフの手を借りながら生活されているご利用者が、十分な環境や物がそろわない中で生活しなくてはなりません。
とくに大変なのは健常者でも不便を感じるトイレの問題かもしれません。通常食が食べられない方の食事を用意するのも大変でしょう。
認知症の方が、慣れない環境で混乱しないように気を配る必要もあります。認知症の方は環境の変化に敏感なため、慣れない避難生活に大きなストレスがかかります。少しでも安心できる環境作りや声かけが必要です。
避難中の健康管理・感染症のリスク
避難生活が長くなると慣れない環境でストレスが蓄積し、体調を崩してしまうことも少なくありません。衛生環境が不十分な避難所での密集した生活は感染症のリスクも伴います。
服用している薬の確保や医療機器の作動がままならない場合は、ご利用者の生命や健康に影響してしまうことも考えられます。
スタッフの確保が困難
地震が起きたあとはスタッフの人員確保が難しいのも問題です。地震で被害を受けているのは施設だけではありません。スタッフの自宅も大きな被害を受けている可能性があります。
スタッフやスタッフの家族が被害を受けているかもしれない中で出勤できるスタッフを確保するのは難しいでしょう。幸い出勤できるスタッフがいても、施設までの交通手段がないかもしれません。
誰かの手助けが必要な介護施設では人員確保も大きな課題です。
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地震が起きた時の介護施設の対応マニュアル
地震が起きた時のために介護施設が取るべき行動は、マニュアル化して周知徹底しておくことが大切です。どのようなことをマニュアル化しておいたら良いかを確認しておきましょう。
避難経路の共有
避難が必要になった場合、避難経路を決めてスタッフ、ご利用者で共有しましょう。避難経路は、建物平面図に矢印などでわかりやすく記載し、確認しやすい場所へ掲示しておきます。
介護施設のご利用者の心身の状況はさまざまなので、その方に応じた避難方法を検討し、訓練しておく必要もあります。
建物・設備の定期チェック
1981年(昭和56年)6月1日から適用されている「新耐震基準」ではなく、それ以前の「旧耐震基準」で建てられた施設は耐震性能が低い可能性があります。古い施設は耐震診断を行い、補強するなどの対策が必要です。
また、施設の設備では以下のことも確認しておきましょう。
- 家具等の転倒防止対策(耐震マット・固定)
- 高い位置に置いている備品等の除去
- 防火素材のリネン
- 避難経路の障害物除去
- 窓ガラス等の対策(網入ガラス・強化ガラス・飛散防止フィルム等)
- 屋外対策(屋根・外壁・看板等の確認、補強)
災害備蓄品の定期チェック
介護施設における災害備蓄品は、一般家庭で用意される備蓄品に加えて医療や介護に必要な備蓄品を十分に確保しておかなければなりません。
早く取り出せる場所に保管しておくこと、誰もが保管場所を認識しておくことも大切です。また、期間を決めて定期的に備蓄品の内容を確認するようにしましょう。
避難訓練の実施
「消防法第36条」により、大規模建築物等は防災管理者を選任し、訓練マニュアルに基づいて避難訓練を1年に1回以上しなければなりません。大規模建築物には「社会福祉施設等」も該当します。避難訓練は地震だけでなく火事や台風などのあらゆる災害に備えて実施することが大切です。
人手が足りない中で十分な避難訓練の機会を設けることが難しい施設もあるかもしれませんが、避難訓練は時期を決めて定期的に実施することが大切です。普段から訓練していなければ災害時のパニック状態の中で迅速な避難は難しいでしょう。
参考: 一般財団法人 日本消防設備安全センター 防災管理定期点検報告(消防法第36条)
ご利用者情報や緊急連絡先の整備
ご利用者の緊急連絡先は日頃から整備しておきましょう。災害時に連絡が取りにくくなる可能性も想定し、キーパーソン以外の連絡先やメール、ラインなど複数の連絡先を確保しておくと安心です。
また、ご利用者がケガや体調不良で入院になる場合や、避難先ではボランティアの方などにヘルプしてもらうことがあります。ご利用者の情報をすぐに分かる状況にしておけば、普段の様子を知らない方に迅速に対応してもらえます。持ち出し用のファイルの他に、普段から情報をクラウド上で管理しておくとより安心です。
スタッフ連絡網の更新
スタッフ間の緊急時の連絡方法をルール化しておくことも重要です。
施設はスタッフに支えられて成り立っています。スタッフやスタッフの家族の安否確認はもちろん、可能であれば出勤要請もしなければなりません。新しいスタッフが入社するたびに連絡網を更新して、スタッフ全員への指示が円滑に行えるように準備しておきましょう。
地震発生後の対応マニュアル整備
地震が発生し、スタッフもご利用者もパニックになっているときに冷静な行動を取るのは難しいものです。実際に地震が起きた際の対応手順をまとめておくと、すべきことが明確になり安心です。
2021年の介護報酬改定により、介護事業所は2024年4月までにBCP(業務継続計画)を策定することが義務付けられました。BPCとは災害や感染症発生時などの緊急事態が生じた場合でも最低限のサービス提供が維持できるよう対応策をまとめたマニュアルのことです。
BPCに記載する主な内容は以下の通りです。
- 災害対策に関する基本方針
- 災害対策の推進体制
- 施設・事業所が所在するハザードマップ
- 自治体が公表する被災想定
- 優先する事業(複数の事業を運営する場合)や優先する業務
- 災害訓練について
- BPCの検証や見直しについて
- 建物・設備の安全対策
- 電気・ガス・水道が止まった場合の対策
- 通信・システムが停止した場合の対策
- 衛生面(トイレ・汚物等)の対策
- 備蓄品について
- ご利用者や職員の安否確認
- 施設内外での避難場所・避難方法
- 災害時の職員のシフト・休憩・宿泊場所
- 復旧対応
- 他施設や地域との連携
参考:厚生労働省 介護施設・事業所における業務継続計画(BPC)作成支援に関する研修
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介護施設で地震に備えて準備しておくべき非常用品
介護施設で地震に備えて準備しておくべき非常用品には以下のようなものがあります。
飲料・食品 | 飲料水・レトルト食品・乾パン・缶詰・インスタント食品・ドライフーズ・経管栄養剤・とろみ剤など |
調理器具・食器 | 鍋・卓上コンロ(燃料)・紙食器など |
救急医薬品 | 消毒液・鎮痛剤・三角巾・ガーゼ・包帯・眼帯・綿棒・絆創膏・ウェットティッシュ・せっけん・はさみ・ピンセット・紙テープ・体温計など |
衛生用品 | マスク・おむつ・生理用品・トイレットペーパー・下着・ビニール袋・新聞紙・使い捨て手袋など |
その他 | 毛布・タオル・サバイバルシート・暖房器具・カイロ・懐中電灯・電池・ラジオ・小型テレビ・メガホン・マッチ・ロウソク・発電機・携帯電話用バッテリー・筆記用具・工具セット・ひも・簡易トイレ・車椅子・担架・ヘルメット・軍手・おんぶひもなど |
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災害時・地震発生時のための備えが大切
今回の記事では、介護施設の災害時の備えや地震が起きたときの対応マニュアルについて解説しました。
介護施設には、災害時に自力での避難や避難生活が困難な方が生活されています。そのため、マニュアルの整備や災害備蓄品の準備、避難訓練などを実施し、ご利用者の命を守るための備えが大切です。
この記事を参考に、防災への意識を高めましょう。
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