介護事業所のコンプライアンス(法令遵守)について!マニュアル作成や研修のポイントは?
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目次
介護におけるコンプライアンスとは?
「コンプライアンス(法令遵守)」とは、公正な介護事業運営のための基礎的なルールです。
介護事業所の運営には、介護サービス利用者とそのご家族、地域の方や社会から信頼されるため
に法令や社会ルールを守ることが欠かせません。
介護事業では介護サービスを利用される方の命を預かるため、信頼が重要です。
法律に従うことはもちろん、人との約束を守ることも社会のルールに該当します。
介護事業者がコンプライアンス(法令遵守)を守った運営を行うことは、利用者やご家族、地域
や行政などから信頼される上で最も重要な役割を果たします。
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コンプライアンス・マニュアルを設ける目的は?
コンプライアンスのマニュアルを設ける最大の目的は、「私たちの日常行動で守るべきこと」を
明確化するためです。
介護事業者としてだけでなく、社会で生きる人間として大切なことも改めて確認できます。
・社会人として遵守するべきこと
介護事業でのルールを守る前に、1人の人間として社会ルールやマナーを守ることが重要です。
人を傷つける言動をしない、人との約束を守るなど、人として当然のルールを遵守しましょう。
介護従事者として、倫理や道徳、良識に基づいた責任のある行動が求められます。
・介護事業者の一員として遵守するべきこと
介護のプロフェッショナルとして、利用者やご家族、地域や行政から信頼と安心を得ること。
介護事業の従事者として1人1人が心がけるべき大切な目標です。
質の高い介護サービスの提供を通じて、介護業界全体のサービス水準上昇を目指しましょう。
不祥事の発生を撲滅する目的も
介護事業所における不祥事はコンプライアンス違反者が存在するからこそ起こります。
しかし、違反者の陰には違反を起こさせる要因になった人がいるのも事実。
コンプライアンスでは違反者や、違反を起こさせる要因となった者の特徴を以下の通りにまとめ
ており、不祥事の発生を防ぐことを目指しています。
<コンプライアンス(法令遵守)違反者の特徴>
・[これぐらい皆していることだ]と仕事に対する倫理上の判断が甘い
・目の前の業務で手一杯になり、自分がやっていることを客観視する力が弱い
・「今回は仕方なかったことだ」と自分の誤った言動に見て見ぬふりをしてしまう
・長時間労働による疲労や寝不足で、判断力が鈍るほど心身が疲弊している
<コンプライアンス(法令遵守)違反を起こす要因を作った人の特徴>
・「自分の指示に従わない相手が悪い」と自分の立場や権力を過信している
・「これやっておいてね」と他人に指示ばかりし、仕事を放棄している
・「とりあえず上司に聞かないとわからない」と自分で物事の判断をすることを避ける
・「部下がしたことなので自分は関係ありません」と部下の実態に無関心
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コンプライアンスのマニュアル作成時のポイント・注意点
介護事業所でコンプライアンスマニュアルを作成する際、どのようなポイントや注意点に気を配る必要があるのでしょうか。
ここでは、介護事業所でコンプライアンスマニュアルを作成する際に、気を付けるべきポイントや注意点を5つご紹介します。
曖昧な表現や暗黙のルールを避ける
利用者様への適切な対応やケアの仕方など、これまで暗黙のルールとして捉えられていた仕事に対する倫理観について、全て文書化することが大切です。
「このくらい、書かなくても分かるだろう」と思って省略してしまうと、介護職全員に職場で守るべきマナーやルールが伝わらなくなってしまいます。
また、曖昧な表現や難しい言い回しは避け、誰が見ても分かるような簡単かつ明確な内容を心がけるようにしましょう。
「例外として」は記載しない
コンプライアンスマニュアルでは、業務上守るべきルールやマナー、禁止事項などを記載しますが、その通りにいかないケースも多いです。
例えば、「利用者様に身体拘束を行わない」と決めていても、認知症により危険な行為をしてしまう利用者様には、ご家族の方の同意を得た上で身体拘束を行う場合があります。
しかし、コンプライアンスマニュアルに「例外として」と記載することで、介護職が混乱を招いてしまい、対応に個人差が生じてしまいます。
コンプライアンスマニュアルでは、「例外として」「例外のケースが生じた場合」などの記載は避け、一貫したルールを記載することが大切です。
事業所内でマニュアル運用を確認する時期を記載する
コンプライアンスマニュアルを作成した後は、マニュアルに記載されている内容通りに運営が行われているか、事業所内で定期的に確認する必要があります。
いつ、誰が、どのような流れでコンプライアンスマニュアルの確認を行うのか、明確な時期や確認の手順についても明記することが大切です。
外部に依頼してマニュアル運用を確認する時期を記載する
作成したマニュアル通りに運営が行われているか、事業所内の職員だけで確認するのではなく、外部に依頼して調査してもらうことが大切です。
介護事業所では、適正な運営が行われているか、行政の職員が立ち入り調査を行う「実地指導」を定期的に受けるため、その際に確認してもらうことも可能です。
また、法務や会計監査などの専門家に調査を依頼するケースもあります。いつ、誰に、どのような調査をしてもらうのかについても明記するようにしましょう。
コンプライアンス違反の相談窓口について記載する
もし、コンプライアンスや法令に違反する行為を行った介護職がいた場合、早期に発見し、適切な指導もしくは処罰を行う必要があります。
利用者様への虐待行為や職員同士でのハラスメントなど、コンプライアンス違反を相談できる窓口の設置についても、マニュアルに記載するようにしましょう。
また、相談窓口に配置する職員数や役職、相談を受けた際に行う対応についても細かく記載しておくことが大切です。
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コンプライアンスの違反とは?
コンプライアンス違反には、「介護サービスの提供に際して、利用者やご家族に発生する違反」
と「従業員間で発生する違反」の2つがあります。
2つのパターンに沿って、実際に起こったコンプライアンス違反の事例をご紹介します。
介護サービスの提供に際して、利用者やご家族に発生した違反の事例
【事例1】介護報酬の不正請求
介護施設にて、ある男性利用者の暴力行為が酷く悩んでいるという話を介護職員から聞いた
介護事務職員がその男性利用者に対し、介護報酬を過剰に上乗せして請求を行った。
誤請求に気づいた上司が該当職員に話を聞くと、「介護職員から男性利用者の暴力の内容を
聞き、腹が立ったから」と説明している。
【事例2】利用者の人格尊重義務違反
介護施設に入居されている女性利用者は、認知症により感情がコントロールできません。
それに対し、腹を立てた介護職員がその女性利用者に対して、「しつけ」と称して暴力を振るう、怒鳴るなどの身体的・心理的な虐待を行った。
従業員間で発生した違反の事例
【事例1】従業員へのサービス残業の強制
介護施設に勤務する介護職員は、介護施設での人手不足により、毎日残業をしていた。
しかし、残業時間を管理する上司が「残業が多いと施設長に指摘を受けているから、実際よりも少ない残業時間を申告しろ」と指示を行っていた。
【事例2】違法に該当する長時間労働の強要
介護施設では、派遣雇用の介護職員が所属する派遣会社との間で、「1ヶ月当たりの残業時間を45時間以内とする」と決めていた。
しかし、実際に介護施設に勤務した派遣雇用の介護職員が、「1ヶ月当たり80時間を超える残業が常態化していた」と派遣会社に報告した。
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違反した場合、罪に問われるの?
介護業界での違反には、以下のような法律が適用されます。
- 介護保険法:介護職員による虐待行為などの規制を定めている
- 労働基準法:介護職員の雇用に関する遵守事項を定めている
- その他:刑法や個人情報保護法
そのため、法律違反が認められると以下のような罰則も生じます。
- 介護報酬の不正請求:介護事業所の指定、認可の取り消し、違反内容の公表
- 人格尊重義務違反:該当介護職員の公表処分、介護事業所の指定、認可の取り消し
- 労働基準法違反:労働基準監督署による行政指導や刑事処分
- 労使協定の上限を超えた残業:労働基準監督署による行政指導や刑事処分
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介護サービスのコンプライアンス違反に適用される法令
介護サービスを提供する上でコンプライアンス違反が発覚した場合、どのような法令が適用されるのでしょうか。
ここでは、介護サービスのコンプライアンス違反で適用される法令5つと、その概要についてご紹介します。
介護保険法
介護保険法とは、介護サービスを利用する方が自分らしく、自立した生活を送ることを目的とした法令です。
介護事業所には具体的に、以下のようなコンプライアンスの遵守が求められます。
- 人格尊重・忠実義務:介護サービスを利用する方の人格を尊重し、虐待や身体拘束を行わず、忠実に業務を遂行すること
- 秘密保持義務:勤め先の介護施設または介護事業所で知り得た利用者の方やそのご家族、介護サービスの利用希望者の個人情報を漏らしてはいけない
介護保険法で定められている法令に違反した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられます。
介護従事者の仕事を辞めた後も、個人情報の漏えいを行ってはいけません。
老人福祉法
老人福祉法とは、介護を必要とする高齢者が生きがいを持ち、健全で安らかな生活を送ることを目的とした法令です。
介護事業所には、具体的に以下のようなコンプライアンスの遵守が求められます。
- 適正な運営:介護サービスを利用する方が安全かつ健全な生活を送れるよう、適切な介護サービスを提供する
- 業務改善:行政職員が運営指導を行った場合、指導内容に沿って業務改善を行う
老人福祉法で定められている法令に違反した場合、行政による「改善命令」もしくは「業務停止命令」が下されます。
業務停止命令が下された場合、介護事業所は利用者様への介護サービスの提供を行うことが禁止されます。
高齢者虐待防止法
高齢者虐待防止法とは、高齢者への虐待行為を防止することを目的とした法令です。
介護事業所には具体的に、以下のようなコンプライアンスの遵守が求められます。
- 介護サービスを利用する方に対し、身体的虐待・精神的虐待・経済的虐待・性的虐待・介護放棄(ネグレクト)などの虐待行為を行ってはならない
- 虐待行為を発見した場合、すぐに行政または警察に通報する
高齢者虐待防止法で定められている法令に違反した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられます。
個人情報保護法
個人情報保護法とは、介護を必要とする高齢者の個人情報や、権利、利益の保護を目的とした法令です。
介護事業所には具体的に、以下のようなコンプライアンスの遵守が求められます。
- 利用者様やそのご家族の個人情報を把握する際、介護事業所側が「個人情報を何の目的で取得・利用するのか」を本人へ伝える
- 取得した個人情報は厳重に管理し、利用目的以外の用途で使用しない
個人情報保護法で定められている法令に違反した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられます。
労働基準法
労働基準法とは、介護職が自分らしい生活を送ることを保証する法令です。
介護事業所には具体的に、以下のようなコンプライアンスの遵守が求められます。
- 介護職が行った有給休暇申請を、正当な理由なく拒否してはならない
- 労働基準法で定めている法定労働時間を超えて介護職を働かせる場合、時間外手当の割増賃金を支給しなければならない
労働基準法で定められている法令に違反した場合、労働基準監督署の調査が入り、悪質な違反であれば、責任者の逮捕・書類送検が行われます。
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コンプライアンス違反への対策について
介護事業所におけるコンプライアンス違反には、介護保険法や労働基準法、その他法律への
違反だけではなく、以下のような事例も該当します。
- 介護職員が利用者の金品を窃盗した
- 介護職員のハッキングにより、利用者の個人情報が介護事業所外へ流出した
法律違反を含めた介護事業所でのコンプライアンス違反の対策は、以下の通りです。
- 監査等の第三者に委託し、介護事業所経営への監視を徹底する
- 介護職員への過度なストレスを防ぐ職場環境の整備
- 残業の廃止及び、残業時間の申告や記録を公正化する
- 雇用する介護職員の増員を行い、介護職員1人当たりの業務を軽減する
- 介護職員1人1人に定期的な精神状態のヒアリングを行う
- 弁護士にアドバイスを求め、コンプライアンス違反予防策を講ずる
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介護事業に求められる研修制度
コンプライアンス違反防止のためには、研修や勉強会を開いて、介護職員全員にコンプライアンスマニュアルの周知を促すことが大切です。
コンプライアンス(法令遵守)を介護職員に理解してもらうための研修をご紹介します。
また、それぞれの研修で学ぶべきポイントについても合わせて解説します。
OJT(実際の業務を通じての研修)
介護現場での実際の業務を通じて、介護職員個々の個性や考えに応じた実践的な指導を行う。
<具体的な内容>
- 介護職員それぞれに「1年後になりたい職員像」を描いてもらう
- 分からないこと、困っていることを放置しない・させない
- 職種、立場関係なく、間違っている言動についてその場に応じた臨機応変な指導を行う
<研修で学ぶべきポイント>
- 実際の業務を通じて、介護事業所で守るべき行動規範を学ぶ
- 介護事業所の具体的な業務内容や組織体制、利用者様への適切な対応などを学ぶ
- 介護事業所の運営方針や就業規則を確認する
OFF‐JT(職務を離れての研修)
介護事業所内で、介護業務の実例に伴った職員研修を開く。
もしくは、外部の専門講師を招いて介護知識、技術向上のための派遣研修を開く。
<具体的な内容>
- 実例に伴った利用者への対応の仕方を学ぶ
- 介護職員に実例を見て感じたことや、研修会の感想を書いてもらう
<研修で学ぶべきポイント>
- 研修会を通じて、日頃の介護業務や利用者様への対応を振り返る
- 介護事業所のコンプライアンスを再確認し、社会人としての責任ある行動や介護事業所が持つ社会的責任について理解する
SDS(自己啓発援助制度)
資格の取得を通じて、仕事への意欲向上やモチベーションアップを目指す。
<具体的な内容>
- 実務者研修の受講及び介護福祉士の資格取得を目指す
- 就職希望者へのセミナーイベントの準備や開催を通じて自己啓発を目指す
<研修で学ぶべきポイント>
- 介護福祉士や介護支援専門員、看護師などの専門職が持つ役割を理解する
- 資格の取得に必要な勉強を通じて、多職種連携や報連相について学ぶ
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研修・勉強会を通じてコンプライアンスの再確認を
研修・勉強会ではコンプライアンス(法令遵守)の考え方として以下の内容を再確認します。
・介護事業所での職員体制の明確化
コンプライアンスの明確化では、介護事業所の職員全体の構成についても明確化します。
不祥事が起こってしまった場合の責任体制や役割を確認し、違法行為の撲滅を図ります。
・利用者とご家族、地域や行政との関係を見直す
介護従事者として大切な倫理観念の再確認を行います。
それに伴い、利用者やご家族、地域や行政などとの関係性についても見直しを行います。
・コンプライアンス違反が起こらない職場づくり
介護職員全体でコンプライアンスの重要性を再認識し、明るく健全な職場を目指します。
・介護事業所の印象を高める
介護事業所はコンプライアンス違反がないことが信用への第一歩です。
コンプライアンスに対する取組みを通じて介護事業所のイメージ向上、印象アップを図ります。
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基礎的ルールだからこそ、忘れないように定期的な確認を
介護事業所の運営の基盤には、「コンプライアンス(法令遵守)」が存在します。
コンプライアンス違反を撲滅し、明るく健全な介護事業運営こそが利用者やそのご家族、
地域や行政、他事業者などの関係者に深い信頼を与えます。
ただ法律に触れることをしないだけではなく、人としてのルールやマナーを守ることがコンプラ
イアンスにおいて、とても重要です。
介護事業所の運営者はもちろん、介護職員1人1人がコンプライアンスの周知や確認に努めま
しょう!
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