介護の知識

介護現場で問題のスピーチロックとは?介護現場での正しい声かけについて見直しを!

介護現場で問題になる「スピーチロック」とは

「スピーチロック」とは、介護者の言葉や声かけによって、高齢者の行動を身体と精神の両方の側面で制限してしまうことを言い、「言葉の拘束」とも呼ばれています。

具体的には「ちょっと待って!」「ダメでしょ!」などの言葉がスピーチロックに該当します。

また、介護者が何気なく使っている言葉や声かけに高齢者が我慢をする、上手く言い返せないことから認知症の進行を助長してしまうことがあります。

そして、スピーチロックには明確な基準や定義がないことから、 一般的な声かけと虐待との違いが分かりにくいとされて、介護現場での問題意識が高まっています。

介護職員による利用者への虐待防止のため、スピーチロックに関する研修や勉強会が注目されています。

なぜスピーチロックは起きてしまうのか

スピーチロックが起こってしまう原因として、介護施設での深刻な人手不足が挙げられます。

人手不足の介護現場では職員1人の業務負担が大きく、介護職員は常に業務に追われています。

介護職員に心の余裕がないことから、利用者1人1人に向き合うことができない。

そのため、介護職員は利用者からの呼びかけに「ちょっと待って!」と返してしまいます。

人手不足が解消されない限り、介護施設でのスピーチロックは解消しにくいと言われています。

しかし、「ちょっと待って」という言葉1つでも、なぜ待つ必要があり、どのくらいの時間待てば良いのか、少し言葉を添えるだけで言葉、声かけの意味合いがガラリと変わります。

また、命令口調では、利用者に対して「動くな!」と言っていると捉えられます。

そのため、介護職員の意識や言葉遣いを少しずつ変えるだけでもスピーチロックの防止・改善には大きな効果を発揮します。

スピーチロックを改善するには、利用者に対して丁寧な口調で、具体的な内容を伝えることが大切です。

スピーチロックは介護現場での拘束で1番見えにくい?

介護現場での身体拘束の定義として、「フィジカルロック」「ドラッグロック」「スピーチロック」の3つがあります。

  • フィジカルロック=利用者の身体をベッドに縛るなど、物理的な拘束で動けないようにする
  • ドラッグロック=薬物の過剰投与や不適切投与で、利用者の行動を制御する

上記2つの拘束を行うには、拘束具や薬などの道具の用意が必要です。

しかし、スピーチロックは道具の用意もなく、誰でも簡単にできること。

そして「言葉」は目に見えにくいことから、他の2つの拘束よりも起きやすいとされています。

スピーチロックの具体例

具体的にどんな言葉がスピーチロックに該当するのか。

介護職員の言葉やスピーチロックが生じる場面など、スピーチロックの具体例をご紹介します。

介護職員の言葉によるスピーチロック 

  • 車椅子を使用している利用者が介護職員に「部屋に戻りたい」と声をかけた。
    →介護職員は「ちょっと待ってね」と返し、他の利用者の居室誘導でその場を去った。
  • 5分前にトイレを済ませ、部屋に戻った認知症の利用者が居室のコールを押し「トイレに行きたい」と言った。
    →コール対応をした介護職員は「さっき行ったよ!」とだけ言い残し、居室から立ち去った。

介護職員の態度によるスピーチロック

  • 寝たきりの利用者からコールがあり、介護職員が伺うと利用者は言葉を発さなかった。
    →コール対応をした介護職員が「何もないなら行くね」と言い、居室から立ち去った。
  • 認知症により発語が難しい利用者に介護職員がトイレの声かけを行ったが返答がない。
    →利用者の返答がないことにしびれを切らした介護職員が「また後で来ます」と勝手に立ち去った。

スピーチロックでADLが低下したり症状が悪化することも

スピーチロックを行うことで、行動が制限され、必要な動作ができなくなります。

それに伴い、日常で必要な動作ができなくなることや、認知症の症状悪化に繋がります。

スピーチロックがもたらす高齢者への悪影響についてご紹介します。

認知症の進行・症状悪化

認知症では「さっき夕食を食べた」「さっき息子が家に来た」などの短期的な行動の記憶は消えやすく、「怒られた」「無視された」といった感情面での記憶は残りやすいとされています。

そのため、介護職員に「危ないから座って!」と言われると記憶に残ってしまい、介護職員に怒られないようにと無意識的に行動を制限してしまいます。

極端にストレスが加わることで暴力行為や不穏症状に繋がるリスクも高まります。

また、徘徊行為に対して「座っていて」と言われることで「どうして座らないといけないの?」と、かえって本人の混乱を招いてしまいます。

スピーチロックは認知症の方のストレスを高め、症状を悪化させるという認識が必要です。

ADLの低下・介護状態の悪化

スピーチロックでは「部屋に行きたい!」「ご飯が食べたい!」といった利用者の希望を「今は無理!」という一言で禁止してしまいます。

それによって、利用者は意思表示することを諦め、自分から行動することをしなくなります。

その結果、自力でご飯を食べることや、歩くことが困難になるということが起こります。

行動意欲の低下は、筋肉の衰えや関節拘縮などの身体的な悪影響に直結します。

スピーチロックによって筋肉を動かす機会を一気に奪われた高齢者は、食事や入浴、排泄などのADL(日常生活動作)ができなくなってしまい、寝たきり度が高まる恐れがあります。

スピーチロックの対策方法は?

利用者への声かけ、言葉かけはコミュニケーションの一環です。

人手不足の介護現場では、職員の多忙が理由でコミュニケーションを省いてしまうことが大きな原因となり、短く強い言葉で利用者に職員の意思を伝えてしまいます。

利用者を尊重したコミュニケーションこそがスピーチロックへの対策です。

スピーチロックの防止・改善に向けた具体的な対策方法についてご紹介します。

介護職員の行動傾向を自己覚知する

  • 自分自身が業務に追われて利用者の呼びかけにすぐ対応できない時。
    →それはどんな時間帯で、どんな業務内容の時が多いか。
  • 利用者に対して強い言い回しや命令口調になってしまう時がある。
    →それはどんな状況の時で、それ以外の状況ではどんな声かけをしているか。

このように、自分自身の行動の傾向について、まずは考えてみることが大切です。

普段から自身の行動を自覚・把握することが、無意識的なスピーチロックの防止に繋がります。

否定せず、相手の気持ちを考える

「~しないで!」といった否定は利用者の行動を止めるだけでなく、心を傷つけてしまいます。

利用者に話しかける前に、数秒間だけでも「なぜこの人はこれがしたいと言っているのか」という利用者の気持ちについて一旦考える時間を作りましょう。

利用者の気持ちを考えることで、「それなら、~をしていただけますか?」 といった、代替案の提示や依頼が可能になります。

提示や依頼を受ければ、利用者も「じゃあそうしようか」と行動を選択できます。

また、利用者に対して思いやりやマナーを守った言葉遣いをすることも大切です。

利用者の気持ちを尊重しつつも、介護職員の要望を伝えるためにも「~してくれる?」といった上から目線の言葉は好ましくありません。

伝える内容はもちろん、言い方を丁寧にするだけでもスピーチロックの改善に繋がります。

スピーチロックを防ぐ言葉の言い換えを覚えておこう

スピーチロックを防ぐためには、言い換えの言葉を覚えておくことが大切です。

言い換えの言葉については、メモや一覧表を作成して携帯しておくことや、日頃から研修や勉強会を行い、職場全体で共有することをオススメします。

スピーチロックをしそうになった時の言い換え言葉の具体例についてご紹介します。

スピーチロックの言い換え例

  • 「ちょっと待って」
    →「〜を終えてからすぐに伺いますので、5分ほどお待ちください」
  • 「ダメでしょ」「やめて」
    →「○○さん、どうされましたか?」「ベッドから落ちてしまいますので、やめて頂けますか?」
  • 「そこにいて」
    →「どちらに行かれるんですか?」「私もご一緒させて頂きたいので、あと5分待って頂けますか?」

ふとした一言が相手の行動を制限しているかも

介護現場では介護職員の人手不足により、職員1人当たりの業務負担量が多くなります。

つい、業務に追われてバタバタしている時は利用者に対して声かけがいい加減になりがちです。

しかし、それこそがスピーチロックが起きてしまう最大の要因です。

利用者を心身共に拘束し、介護状態や認知症の悪化を招かぬよう、介護職員は常に利用者へ丁寧に接することが求められます。

そのためには、自分の行動傾向について自覚し、悪い言葉の言い換えを用意しておくなど、普段からスピーチロックについての意識を高めておくことが大切です。

適切な判断と対策で介護現場からスピーチロックを完全になくすことを目指しましょう!