スキルアップ介護の知識

介護の基本!安心・安全なトランスの方法をマスターして快適な介助をしよう

介護における「トランス」の意味は?

介護現場における「トランス」とは、移乗介助の動作を指します。英語の「transfer(トランスファー)」に、「移転する」といった意味があり、それを略語化したものです。「2名でトランスしましょう」「トランス手伝って」といったような使い方をします。

場面別でのトランスの手順を解説!

ここでは、ベッドから車椅子、車椅子からベッド、床から車椅子の3つのパターンに分けて解説します。

ベッドから車椅子

  1. 胸の前で腕をクロスし膝を曲げ、身体を小さくしてもらいます。その後、移乗する側のベッドに横向きになります。できる限りベッド際まで自分で移動してもらうか、難しければ骨盤の下に手を入れ、下半身と上半身を2回に分けてベッド際に移動します。
  2. 起き上がりやすいようベッド際まで移動したら、膝から下をベッドから下します。自分でできる方は手をついて起き上がってもらい、難しい場合は介護者の腕を被介護者の頭の下に入れます。被介護者には自分のおへそを見る姿勢をとってもらい、息を合わせて起き上がります。起き上がり介助の際には、介護者は足をベッドと並行に開き、半円を描くようにして頭の下に腕を入れたまま、被介護者の上体をゆっくりと起こします。スピードが早いと気分が悪くなってしまうため、ゆっくりと行いましょう。ベッドに腰掛けることができたら、立ち上がります。
  3. 車椅子を、ベッドにできる限り近づけます。座面が開ききっているか、ブレーキがかかっているか、フットサポートを外しているか、周囲に障害物がないかを必ず確認します。
  4. 脚力があり自力で立てる場合は、アームサポートを掴めるようサポートします。もしくは、被介護者に両手を前に出し肘を曲げた状態で、介護者がその肘を下から支える形に合わせ、身体全体を使って手前に引き、立ち上がりを助けます。

足に力が入りづらい場合は、介護者の方に腕を回してもらい、介護者が被介護者の上体に腕を入れて移乗します。移乗する側のベッドを、車椅子よりも高くすると重力によって移乗しやすいです。移乗の瞬間は、一部介助の場合は被介護者と車椅子の間を遮らないようにしながら、両腕をわきの下に差し入れて支えます。やや前傾姿勢になり、腰を浮かせ、ベッドと車椅子が最短距離になる導線を移動し、車椅子の座面に着地します。浅く座っている状態のため、座り直しを行います。

車椅子からベッド

  1. ベッドから車椅子に移乗する場合と同じ手順で行います。介護用ベッドであれば昇降して高さを変えやすいですが、車椅子の座面の高さは簡単には調整できません。高低差を利用した介助が難しい分、介護者が腰を痛めないように留意して行いましょう。
  2. ベッドに移乗してからは、ベッドの端に座っている時間が長いと段々と下に滑り落ちてしまうため、ベッドの中央に位置するように介助しましょう。

床から車椅子

床から立ち上がる介助方法を説明します。

  1. 床から立ち上がる際、脚力と腕力が自身にある場合は、椅子などを利用すると良いでしょう。四つ這いになった後に手を椅子の座面に置き、片膝を立てて立ち上がります。介助者は、転倒しないよう側面から手を添え見守ります。もしくは、骨盤を支えて立ち上がりをサポートします。
  2. 自身での立ち上がりが難しい場合は、まず体育座りになり、左右いずれかの足をやや前に出します。腕は、胸の前で組んでもらいます。その後、介助者は後ろに回り、腕を掴みます。息を合わせて、前かがみになり、腰を浮かせる姿勢になります。お尻が浮いたらそのまま上の方向に押し出すようにサポートします。立ち上がった後はふらつきやすいので、しっかり足を開いて安定したことを確認してから手を離します。全体を通じて、腕を強く掴むと痣になるので気を付けましょう。
  3. その後、座面に臀部が接するまで転倒しないよう介助します。ご自身でアームサポートを掴み、座れる方であっても脚力が弱いため、「どしん」と座って腰を痛めしてしまう場合があるので最後まで留意しましょう。

スーパートランス

スーパートランスという方法があります。

  1. まず、介助者は移乗する先(ベッドなど)に腰掛け、要介護者の膝を、介助者の膝で挟みます。
  2. 要介護者を前傾姿勢にし、脇の下に片腕を通します。臀部が浮いたら、腰を抱える形で手前に寄せ、移乗先に着地させます。この時、2人は隣に座っている状態になります。

トランスに便利な道具について

トランスには、「スライディングボード(トランスファーボード)」という道具が非常に便利です。スライディングボードは、介助者が要介護者を持ち上げることなく、文字通りボードの上を横にスライド移動し、滑るような動作で移乗できる機器を指します。要介護者の臀部が乗るようにボードを差し込み、移乗先に橋渡すように設置し、要介護者の臀部を浮かせるように体を傾けたら、浮いた方の腰を押し出してやります。そうすると、余計な力を入れず、要介護者の筋力を使うことなく移乗ができます。スライディングボードは、介護保険福祉用具貸与品ですので、使用にあたっては介護支援専門員に相談しましょう。

トランスにはリフトの活用を

要介護4または5の重度の障害を持ちトランスが難しい場合や身体が重い場合、在宅での家族による介護の負担が大きい場合には、リフトを活用します。リフトとは、主に天井に取り付け、要介護者を目的地まで吊り上げて移乗する機器を言います。リフトは、予めその場に設置してある必要があります。活用にあたっては、介護支援専門員などの専門職と相談し、使用方法を完全に習得した上で実施します。

トランス介助でのポイント

様々なトランスのやり方がありますが、一度その方に合った方法が分かったら、コロコロ変えない方がいいでしょう。介助の仕方が毎回異なっていると、要介護者が不安になります。なるべく介助方法は固定しましょう。

トランス介助での注意点

トランス介助時には、事故が起きやすいです。介助中にベッドから落ちてしまう転落事故や、移乗時の転倒、フットサポートに足を引っかけるなどしての受傷があります。トランス介助時には、必ず安全かどうかをよく確かめてから実施しましょう。また、介助技術に不安がある場合や、要介護者の様子がいつもと異なる等の場合は、無理して行わないか、2名以上で実施するなどし、リスクを回避しましょう。

上手くできない時の対処法

トランスが上手くできない場合、いくつかの原因が考えられます。まず1つは、介助技術不足です。介助の仕組みが頭に入っていないこと、練習が足りないことが主な原因です。自身の技術を客観視するのは非常に難しいため、そういった場合は、先輩職員や介護福祉士に介助しているところを見てもらい、フィードバックをもらいましょう。介護職員や家族介護をする人は誰しも、熟練者に教わって上手になっています。今は動画サイトに解説動画がありますので、それを活用しつつ、自分の癖や不足している部分を教えてもらいましょう。

次に、要介護者の視点が足りていないことが原因として挙げられます。対策としては、身近な人に練習に付き合ってもらうことが効果的です。自身が要介護者役になってみると、快・不快のポイントを体感でき、自身が介護する際大いに参考になります。

基礎を理解し、安全な介助を

トランスは、基本的な方法を理論面からしっかりと理解し、身体が手順を覚えるほど練習すると良いです。家族や介護職同士で技術を研鑽し、安全な介助を目指しましょう。