移乗介助で介護者の足を股の間に入れる方法って正しいの?移乗介助における足の位置について

移乗の時の足を股の間に入れるのはアリか

介護現場ではベッドと車椅子間での移乗介助の際、利用者の股の間に介護者の足を挟むように入れ込み、移乗をしている介護職員が多いです。

「なんで足を挟む必要があるの?」そんな質問を受けた場合には何と説明すれば良いのか。

日頃、ケアを行っている介護職員でも説明に迷いがちです。

まず、介護者の足を利用者の股の間に入れる理由は以下の通り。

  • 足を入れて利用者の身体を近づけることで重心位置が近くなり、楽に運べるから。
  • 利用者の足にぶつかることなく両足を広げられ、基底面が安定するから。

しかし、それは介護者側の効率を重視した考えであり、統一された見解がなされていません。

介護関連のテキストにも明確な記載がない?

ベッドから車椅子間での移乗介助で、利用者の股の間に足を入れるか入れないか。

介護関連のテキストを参照しても、明確な記載がありません。

・新介護福祉士養成講座(生活支援技術Ⅱ 第3版 中央法規 2014年発行)では、ベッドと車椅子間での移乗介助の写真で足を入れています。

・介護福祉士実務者研修テキスト(第2巻、中央法規 2015年発行)では、ベッドと車椅子間での移乗介助の写真で足を入れていません。

・「新介護福祉士養成講座」は、最新刊である「介護福祉士養成講座6 生活支援技術Ⅰ」が2019年3月31日に出版されています。最新刊では、股の間に足を入れない方法へと写真が変更されています。

なぜ人によって違うのか

高齢者のベッドと車椅子間での移乗介助の際、足を入れるか入れないかは人それぞれ。

なぜ人によって違うのかは、その人が学んだ介護技術やその人自身の価値観が異なるからです。

「足を入れる派」と「足を入れない派」の意見を集めてみました。

足を入れる派の意見

  • 自分の片足を利用者の足の間に挟むことで、足がもつれたりぶつかるのが防げるから。
  • 先輩に教えられて長年足を入れる方法を続け、「足を入れなくても移乗できるよ!」と同僚にアドバイスされたけど、長年の慣れで足を入れた方が移乗しやすいから。
  • 利用者と身体が密着して、移乗しやすいから。

足を入れない派の意見

  • 人の股に足を入れるのは失礼だし、自分がされたら嫌だから。
  • 介護技術講習を受けた際、利用者の股に足を入れるのはNGだという話を聞いたから。
  • 足を挟むと利用者の身体の前屈を妨げてしまうから。
  • 足を挟むことで、足元が狭くなって利用者の足がフットレストに当たってしまうから。

無理に力を入れると自分の腰にも負担がかかる

半介助、もしくは全介助の利用者の移乗介助では、無理に力を入れたり、間違った方法で介助を行うと介護者の腰に負担がかかります。

「ボディメカニクス」といって、骨格や筋肉、関節などの身体の動きを活用し、小さな力で効率よく利用者の身体を動かす技術があります。

介助する側、される側双方の負担軽減に繋がり、無理なく移乗介助ができます。

移乗介助による腰痛の予防のために、ボディメカニクスをしっかり身につけましょう。

ボディメカニクスの8つの基本原理について

ボディメカニクスには以下の8つの基本原理があり、それに基づいて移乗介助を行うことで腰痛予防に繋がります。

  1. 利用者の身体を小さくまとめる同じ重さのものでも、力が分散しないため、面積が小さいほど軽く感じます。そのため、腕を胸の前で組んだり、足を立てたりして利用者の身体をコンパクトにすることで移乗しやすくなります。
  2. 利用者との重心を近づける物を運ぶ際、自分の身体に近づけて持つことで身体の重心が安定します。移乗介助の際も、利用者と距離を詰めてから持ち上げると最小限の力で移乗できます。
  3. 支持基底面積を広くする支持基底面積とは、重心を安定させるために足を開いた時の面積のことです。面積が広いほど身体の安定感が増し、ふらつきません。移乗の際は左右前後に足を広げ、支持基底面積を広げましょう。
  4. 重心を低くする重心が高いと腰に強く負担がかかってしまいます。腰を落としてなるべく重心を低くした姿勢で移乗介助を行うことで、腰痛予防に繋がります。
  5. 大きな筋群を使う手首や腕の部分的な筋肉だけでなく、背中や足などの全身の筋肉を使いましょう。背中や太ももなどの大きい筋肉を使うことで、強い力が発揮できます。
  6. 水平に移動させる移乗では、無理に利用者を持ち上げると腰に負担がかかります。利用者の身体を持ち上げず、水平にスライドするように移乗しましょう。
  7. 身体をひねらない移乗時に腰から身体をねじったような姿勢になると、姿勢が不安定になります。移乗時には、肩と腰を平行のまま動かせるよう、車椅子の位置や利用者の足の向きに注意しましょう。
  8. テコの原理を使う小さな力で移乗するために、テコの原理を活用します。利用者の肘や膝を支点にすると、利用者を寝た状態から起こす、車椅子へ移す動作がスムーズになります。

不快な思いをさせないためにはコミュニケーションを図る

移乗介助のみならず、介護の基礎は「利用者が快適に介助を受けられるようにコミュニケーションを図ること」です。

  • 利用者の気持ちを理解すること
  • 介助前や介助中の声かけを欠かさないこと

安全な状態で移乗介助を行うためには、利用者への声かけを欠かしてはいけません。

利用者が安心した気持ちになるよう、随時声をかけながら様子観察を行います。

移乗介助で股の間に足を入れる際も声かけを行い、利用者が不快な思いをしていることを考えて行うべきか、行わないべきかしっかり判断しましょう。

場所別に移乗の方法を解説!

利用者の移乗介助は、具体的に「ベッドから車椅子」「車椅子からベッド」「車椅子からトイレ」の3つのシチュエーションで行われます。

具体的にどのような手順で行うか、場所別に移乗方法を解説します。

全介助でのベッドから車椅子の移乗

ベッドから車椅子へ移乗する時は、まず利用者にベッドの端に座ってもらうことが必要です。

その後、以下の手順で車椅子への移乗を行いましょう。

  1. 車椅子を約15〜30°の角度でベッド横に斜め置きし、ブレーキをかけてフットサポートを上げる。
  2. 利用者の両足が床につくよう、お尻をずらし、浅座りになってもらう。
  3. 利用者の脇の下から肩を抱くように腕をまわし入れる。
  4. 足を大きく開いて腰を落とし、利用者が前傾姿勢になるように立たせる。
  5. 車椅子に近い足を軸にして車椅子の前面へ方向転換する。
  6. フットサポートをおろし、足を乗せる。

必ず、車椅子のブレーキと位置を確認しましょう。

ブレーキのかけ忘れは転倒につながり、位置や角度の不具合は介護者への負担となります。

ベッドから車椅子の移乗、半介助の場合は?

片麻痺などで半介助の場合も、全介助の場合と基本的な流れは同じです。

片麻痺の方は健側の足や腕に力を入れられるため、ご自身でできる部分は声かけを行うことで、介護者の負担が軽減します。

  • ベッド柵や車椅子のアームレストを持ってもらうよう、声かけする。
  • 健側の足に力を入れるよう声かけし、双方の力を入れるタイミングを合わせる。
  • 健側の足が軸になるため、健側に車椅子を配置する。

車椅子からトイレへの移乗方法は?

車椅子からトイレに移乗する際は、全介助と半介助で方法が大きく異なります。

全介助の場合、トイレへの移乗は2人体制で行うか、リフトを使うことが基本です。

  • 全介助の場合
    介護者1名が抱えて立たせ、もう1名の介護者がズボンを下ろして便座に座ってもらう。
  • 半介助の場合
    手すりを掴んで立ってもらい、その間に支えながらズボンを下ろして便座に座ってもらう。

全介助であれば器具に頼ることも

全介助が必要な利用者の場合、移乗介助の際に以下の方法をとることがあります。

  • バスタオルを使い、介護者2人で平行移乗を行う。
  • トイレでは1人が抱え、もう1人がズボンを下ろす。

人手不足などで全介助の方の介護を行いたくても呼べる職員が身近にいない。

そんな場合も多いため、リフトなどの福祉用具を積極的に活用し、利用者、介護者共に負担の軽減を目指しましょう。

移乗が必要になったら環境を整える

移乗介助が必要になった際には、1つ1つの動作を「これはできるか」「これはできないか」など、声かけを通じて確認することで、利用者の残存能力への理解が深まります。

利用者の残存能力を把握することで、必要な福祉用具が判断できます。

  • 車椅子は自走式、介助式、リクライニング式のどれが良いか。
  • 2人介助やリフトの使用が必要かどうか。

そういった点を見極めてルール化しておくことで、適切な介護が提供できます。

移乗介助が必要になったらまずは環境整備を行いましょう。

方法をしっかり理解すれば自分も相手も楽に移乗できるようになる

移乗介助で身体に負担をかけないためには、正しい身体の使い方と技術を身に着けることが必要です。

移乗介助では介護職が全てしてしまうことで、利用者の運動機能が低下してしまいます。

自立支援を最優先するためにも、声かけを欠かさないようにし、残存能力を活かしたケアを行いましょう。